217 『シンプルストラテジー』

「まさかそれしか作戦がないわけないわよね?」


 本当にそれだけ? と言いたげな目でヒナがサツキを見る。


「敵の首領、サヴェッリ・ファミリーのボス・マルチャーノがいるのが大聖堂の最奥だとして。そこへ行ってやつと戦うのは俺とミナトだ。みんなにはそのための道を切り開いてもらいたい」

「すでにジェラルド騎士団長と死闘をして、まだそんなに時間も経ってないのに無理だよ」


 アシュリーが心配して止めようとする。

 しかし。

 あの激闘を制してきたミナトは涼しい顔で、


「僕は戦いたいなァ。僕に政治はわからないが、そこをだれかに取られちゃァ不味いでしょ。士衛組が勝たないと士衛組の勝ちにならない。それはよくないんじゃなかった?」

「うむ。幸い、と言ってはなんだが。ミナトは無傷だ」

「え」


 びっくりして改めてミナトを見て、アシュリーは目を疑った。


「ほ、ほんと……だ。そういえば、昨日もその前も……ミナトくんって傷一つついたことなくない?」

「そういうやつなのよ、こいつは。死にかけてるのはいつもサツキばっかりで」


 思えばここにいるだれもが、ミナトが怪我の一つでもしたところを見たこともなかった。

 それはスモモも例外ではない。


「まあ、お兄ちゃんたちが知る限りにおいて、ミナトくんは最高の剣士だからね。だからお兄ちゃんたちもミナトくんを引き入れたいわけだし」

「そういうわけだ。ミナトがやるとなれば、俺もいっしょに戦わないわけにはいかないのだ」


 サツキの言葉には妙な説得力があった。ミナトはいいとして、なぜサツキも戦うのか。それは相棒だからであり、『ゴールデンバディーズ杯』を共に戦い優勝した二人がいっしょに戦うのは当然で、ほかに細かい理由を求めることでもないように皆には思われた。

 オリンピオ騎士団長が深くうなずいてみせた。


「うん、わかった。そうしよう。我々がサツキくんとミナトくんのゆく道を開こう」

「マノーラ騎士団の騎士団長がいれば、注意も集められるし戦力としても申し分ないと思う。あたしもそれでいいわ」


 ヒナが賛成したこととオリンピオ騎士団長の頼もしさから、残る面々も反対することなくその作戦でいくことを承知してくれた。

 そして、サツキはリラに視線を投じる。


「作戦の大筋は決まった。俺とミナトがボスを倒せば戦いも終結する。細かい段取りを考えても中がどうなっているかはわからない。そうなると、あとはいかに俺とミナトが辿り着くか。また、いかにして広場にいるたくさんの敵を押さえつけてくれるかだ」

「はい。リラになにか描けというのですね」

「うむ。広場の中に砦を築いてもらいたい。その中で戦ってもらうんだ」

「なるほど」


 二人の打ち合わせを聞き、オリンピオ騎士団長が尋ねる。


「そんなことができるのか?」

「リラは描いた絵を実体化することができます。それによって砦を創り出し、魔法の小槌でこれを大きくします」

「さっきリラくんを大きくした小槌か」


 どうやら小槌を見たことがあるらしいとわかった。

 サツキは語を継ぐ。


「その砦に留まって引きつける役割と、俺たちとできる限り進み、敵を払う役割が欲しいと思っています」

「ならば、皆で行けばいい。広場から大聖堂へ運ぶのはワタシがやる。そして、足止めも我らとオリンピオ騎士団長がいれば充分だ」


 その声にサツキが振り返る。

 立っていたのは、あの二人だった。

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