215 『カセドラル』
ヒナとリラがヴィアケルサス大聖堂に到着すると。
そこにはもうチナミとブリュノがいた。
二人は物陰に隠れて様子を見ており、ヒナとリラに気づくと顔を出した。
「無事でよかったです。ヒナさんも、リラも」
「わあ、チナミちゃん!」
バッとチナミに飛びつくヒナだが、
「いきなり抱きつかないでください」
口ではそう言っても、案外それほどまんざらでもない様子のチナミだった。
「あの。リラは……ん?」
チナミは「じー」とヒナの肩にいるリラを見つめる。
「発見」
「あはは。チナミちゃん、よくわかったね。リラはヒナさんに連れて来てもらったの」
ちょっと照れたようにリラは話した。
「そうだったわね、リラ。元に戻すわよ」
ヒナはリラを地面に下ろし、小槌を振った。
「頼むわよ、《打出ノ小槌》。おおきくなーれ、おおきくなーれっ」
小さかったリラが大きくなってゆく。二十センチくらいだったものが、元の一四七、八センチほどに戻った。
「戻った」
と、チナミはリラを見上げる。
身長の低いチナミだと、元の大きさに戻ったリラのことは見上げなければならない。
ふう、とリラがひと息つく。
「ヒナさん、ありがとうございました」
「いいわよ、別に」
それからブリュノに向き直った。
「ブリュノさん、ご協力ありがとうございます」
こちらにもリラが丁寧に挨拶する。
相変わらず優雅な佇まいでブリュノは腕を広げた。
「なにも気にすることはないさ。ボクはキミたちの力にもなりたいと思うけど、この街のためにできることをしたいとも思っているんだ」
「殊勝ね。悪いのはあたしたちなのに」
ヒナがつぶやく。
しかしブリュノはふふんと鼻を鳴らす。
「悪いのは結託して街を襲ってきた彼らさ。キミたちは悪くない。落ち度もない。そして、街を守ることにも友だちの力になることにも理由などいらない。そうだろう?」
「ホント人格者」
ブリュノには聞こえない声で、ヒナはぽつりと漏らす。
そんな人物に好かれるサツキもすごいが、やはりこんな戦いに平然と身を投じられるブリュノは稀に見る義士だ。
四人が各々の経緯を話していると。
今度はナズナたちがやってきた。
先頭を歩くのはオリンピオ騎士団長。
マノーラ騎士団を代表して同行しているもう一人、新人隊士のエルメーテもいる。
だが、話に聞いていた迷子の女の子はいなかった。
「ナズナちゃん!」
リラが呼びかけると、ナズナはにこっと表情を和らげた。
「みんな、いるんだね」
「うん」
うなずいて、まずはオリンピオ騎士団長とエルメーテに挨拶する。
「オリンピオさん、エルメーテさん。ナズナちゃんといっしょに来てくださってありがとうございました」
「いやいや。我々のほうがいろいろ助けられてしまったよ。な、エルメーテくん」
「はい。お礼を言うのはこちらです」
「あ、いえ、わたしも、ロレッタちゃん……おうちに、送ってあげられて……」
そんな会話を聞き、リラも理解する。
――そっか。迷子の女の子は、オリンピオさんたちといっしょにおうちまで送ってあげられたんだね。よかった。
それからチナミもやってきて、オリンピオ騎士団長とエルメーテを交互に見る。
「ありがとうございました」
二人を見て、
――やっぱり、なんだか似てる。ヒロキさんとコウタさんに。
チナミの実家の晴和王国・王都を守る、治安維持組織『
こうして人数が増えて話す中、オリンピオ騎士団長が聞いた。
「サヴェッリ・ファミリーのボスはあの中にいると聞いたが、いつ突撃するんだい?」
「それは、うちの局長が来てからよ」
ヒナが答える。
「……それじゃあ、一体いつになるんだろう」
エルメーテが不安そうにつぶやいたところで。
うさぎ耳のカチューシャが反応する。
音を拾った。
目を閉じて、ヒナは計算した。
「足音は五人分。その内、聞きなじみのある足音が三つ。間違いない。来るわ。距離からして、あと三十秒ってところかしら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます