213 『エクストラインフォメーション』

 ヒナの頭に声が飛び込んでくる。


『ヒナ姉ちゃん』


 声が聞こえる場所まで特定するのが得意なヒナでも、その発声源がわからないそれは、遠く離れたリディオからの通信である。

 リディオの《電送作戦トランスミッション》は、サツキの元いた世界の科学で表現するなら、立体音響ではない通常録音の音をイヤホンで聞くようなものだからだ。

 このような音でも、音が聞こえる直前には、ヒナは《兎ノ耳》の察知能力で音が届くのを把握し、声が聞こえてきたときには跳躍をやめて屋根の上に着地していた。

 このとき、リラが肩から振り落とされないように手で押さえていた。おかげでリラは安全に着地できた。


「うん。リディオね」

『今、平気か?』

「ええ」

『ナズナ姉ちゃんがやってくれた。これから、すぐに空間の入れ替えが起こっていくぞ。それはナズナ姉ちゃんによる修正だ。元の街並みに戻す入れ替えだ』

「え、どうやって!? ナズナちゃんすごいじゃない!」

『アキ兄ちゃんとエミ姉ちゃんにもらった魔法道具でそれができるみたいだぞ。ナズナ姉ちゃんはマノーラ騎士団のオリンピオ騎士団長といっしょだから、安心していいと思う』


 ここでの追加情報は明るいものだった。肩の荷が下りて、ヒナは安心した。しかしそれ以上に心が晴れやかになる。


「こっちも今、ヴィアケルサス大聖堂に向かってるわ。それなら、あとはあたしの知ってる街並み通りに行けばいいのね」

『ああ! 一応、敵側でも介入してくるだろうし、空間の入れ替えが起こった際にはその都度状況把握に気をつけてくれよ』


 ヒナは得意そうに、


「だれに言ってるのよ」

『おう、そうだな! あと、サツキ兄ちゃんとミナト兄ちゃんはアルブレア王国騎士団のジェラルド騎士団長を破った! 大金星だ! 残すはサヴェッリ・ファミリーのボス・マルチャーノだけ』

「ちょ、ちょっと! ジェラルド騎士団長って、あの? あたしでも知ってる……そんなの倒すなんて」


 うれしい驚きのはずなのに、ヒナは少し怖くなって背中がゾクリとした。

 マノーラに住んでいた時期もありこの辺りのことには明るいヒナだけに、ジェラルド騎士団長の名前は聞いたことがある。アルブレア王国本土にいる騎士たちよりも、ここらでは有名でその実力も高く評価されている。

 そんなジェラルド騎士団長に勝ってしまった。

 サツキが強くなったからというのも当然あるだろう。だが、それ以上にミナトだ。ミナトが強かったに違いない。その強さが時々恐ろしくもある。


 ――ミナト……やっぱりあいつ、普通じゃない。でも、サツキもミナトに引っ張られて強くなってるのよね。あたしも頑張らないと。サツキに胸を張れるように。


 そう思いながら、ふと、さっきは隠れてアルブレア王国騎士たちをやり過ごしたことを考える。

 まあ、さっきの騎士たちを隠れてやり過ごしたのは、このあとの戦いも考えての最善の判断ってことでいいわよね。あたしだけ頑張ってないわけじゃないわ。どうせジェラルド騎士団長が倒されたのなら、他のアルブレア王国騎士たちが戦いをやめるのも時間の問題なわけだし。うん。

 つい苦笑いになるが、ヒナの判断は絶妙だったらしい。

 あとはどれだけ早くアルブレア王国騎士たちにジェラルド騎士団長の敗北が知れ渡るかだが、こちらには期待しないでおいたほうがよさそうだ。引き続き警戒はしなければならないだろう。


「ほかに、情報はある?」

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