192 『シャッフルミラー』

 ナズナは目隠しをして、《ふくきょう》での福笑いを開始した。


「目かなって思うのをこっちに、こうやって……鼻……かな? これは、ここに……まゆ毛は……」

「あはははっ、おかしい~」


 鏡に映るロレッタの顔は、パーツがバラバラになったところから、ナズナの福笑いによって、パーツの配置がアンバランスでおかしくなり、それがロレッタにはたまらなくおかしかった。ケラケラ笑っている。

 つい、エルメーテも噴き出してしまった。


「ふふ! あはは! 晴和王国にはこんなおもしろい遊びがあるんだね。僕の顔でやってほしい」

「確か、晴和王国では紙に描いた絵を綺麗に切って、目隠しをするんだったね」

「は、はい」


 そう言いながら、ナズナが目隠しを外して鏡を見て、ふふ、と笑った。

 ロレッタを見ると、ロレッタの顔も鏡と同じになっていた。


「あ。やっぱり、これって……同じに……」

「そのようだ。鏡の中と同じになる」


 オリンピオ騎士団長が感心する。

 エミは続けて説明する。


「これで決定ならオーケーボタンで、元に戻したければリセットボタンだよ」

「オーケーは2番、リセットボタンは3番さ」


 とアキが付け加える。


「リセットはわかりますが、決定したらそのあとどうなるんですか?」


 エルメーテが質問する。


「そのあとは、決定した状態を保存して、次のキャプチャーができるようになるよ」

「じゃあ、次のキャプチャーを始めたらさっきの状態からもう元には戻せないってことですか」

「うん。一度決定したらリセットボタンを押しても戻せないんだ」

「た、たいへん……」


 ナズナは急いでリセットの3番を押して、ロレッタの顔を見る。すると、ロレッタの顔が元に戻っていた。


「はぁ。よかったぁ……。もとの顔にもどらなかったら、どうしようって思ったよ……」


 もし2番のオーケーボタンを押して決定してしまえば、ロレッタは元の顔に戻れなくなってしまうところだった。戻すにはナズナがそれこそ福笑いでなるべく元の配置に近づけるしかないのだ。

 エルメーテがアキとエミに聞いた。


「これって、目や鼻のほかにも、どんなパーツだって変えられるんですか?」


 横を見るが、そこにアキとエミはいない。

 二人はもう歩き出している。しかしちゃんと振り返って、


「そうだよ! 鏡に映るものならなんでも!」

「顔なら耳でも髪の毛でもできるし、ファッションも入れ替えられるし、後ろに飾ってある絵の場所を変えるとかもできるよ!」

「それより、まずは動いてみようよ!」

「どうすればわからないならレッツゴー!」


 スキップしそうなアキとエミの後ろ姿を見て、オリンピオ騎士団長とエルメーテとロレッタはそちらに歩き出すが、ナズナは閃くものがありそれを言葉にしてみた。


「人以外のものでも動かせるなら……」


 つぶやいて、ナズナはオリンピオ騎士団長に聞いた。


「あの……! もしかしたら、この鏡を、使えば……この街は……」


 そのとき、またあれが起こった。

 空間の入れ替えが発生したのだ。

 切り取られたように空間が消えて別の場所と入れ替わる。どことどこが入れ替わるのかはわからない。

 そんな空間の入れ替えが起こってしまった。

 しかも、その区切りはすぐ目の前であり。

 アキとエミとは、はぐれてしまったのである。


「まさか! アキさん! エミさん!」


 エルメーテが呼びかけるがなんの意味もなく、代わりに現れた空間にはだれもいない。

 オリンピオ騎士団長はエルメーテの肩に手を置いて、エルメーテは口を閉じた。


「さあ。はぐれてしまったものはしょうがないが、彼らは魔法道具を残してくれた。そして、ナズナくんはなにかを思いついたようだね」


 ナズナは大きくうなずいた。


「はい。この鏡で、空から、この街を映して……入れ替えます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る