181 『リバイバルバレット』

 ミナトは、サツキの拳を覆うビリッと弾けるように光るものを見た。

 その拳も地面にコトリと転がるように落ちる。

 両目を閉じて苦しそうな呼吸をするサツキ。

 そこにアシュリーもやってきた。


「ミナトくん」

「どうも。アシュリーさん、そちらは大丈夫ですかい?」

「わたしのことはいいの。それより、サツキくんは?」

「この通りです。ちょっと休憩中みたいですねえ。少し休めば結構回復するんじゃないかな」

「傷も深そうだよね。サツキくん、苦しそう……」


 それから、ミナトはジェラルド騎士団長に目をやった。


「まあ、サツキは無茶しがちですからね。それはそうと。あの人、復活したりしなきゃいいけど」

「……えっと……!」


 不安そうにアシュリーが振り返り、ジェラルド騎士団長を見る。しかし動く様子はない。

 完全に気絶しているように見える。

 すると、サツキが息も絶え絶えに言った。


「精神も、肉体も、強い人だから……いつ目覚めても、おかしくない、ですよ」

「サツキくん! 大丈夫?」


 アシュリーに聞かれて、サツキは目を閉じたまま答える。


「あと、数分で……また、戦えます……」

「まだ戦っちゃダメだよ!」

「……アシュリーさん、帽子を、取ってくれますか」

「うん」


 帽子を取ってやり、帽子の中をサツキに見えるようにしてやる。そこに、アシュリーはサツキの手を取ってもっていった。サツキがなにをしたいのかわかったからだ。


「ありがとう、ございます」


 おそらく、魔力の回復がしたかったのだろう。やはりサツキは帽子の中から《魔力菓子》を取り出した。

 これをアシュリーはサツキの手から取って、包みを開けてやって、サツキの口に運んであげた。


「はい、どうぞ」


 あーん、と言うとサツキも口を開けて食べた。

 サツキの左目に埋まった《賢者ノ石》は、ただ体力を回復させるものではなく、内包された魔力が自己治癒を促す。いや、それ以上のレベルでの修復をするのだが、使われるのは魔力なのだ。《賢者ノ石》もこれを創った悪魔・メフィストによる特殊な魔力の結晶だから、体内にある魔力量を増やせば修復機能が高まると思ったのである。

 どれほどその効果があったのかわからないが、サツキはたったの三十秒ほどで、また言葉を継いだ。


「ジェラルド騎士団長を、目覚めさせます」

「え!? どうして? せっかくまだ気を失ってるんだし、サツキくんもまだ回復に努めたほうがいいよ」

「潔く負けを認める人だとは思いますけど……ちゃんと、敗北を突きつけておきたいんです」

「それって……」


 これには、ミナトが答える。


「おそらく、サツキは勝利宣言をして勝敗をハッキリ示しておきたいんでしょう。こっちもボロボロで転がってちゃァ、どっちが勝ったかわからない。そんな相手の言うことなんて聞いてもらえるかわかりませんからね。まあ、あの人も身体はボロボロです。あとは僕ひとりでも抑えられるんで、なんの問題もありませんぜ」

「うん」


 サツキが立ち上がろうとしているのに気づき、アシュリーは肩を貸して立たせてあげた。


「わたしがいっしょに行くね」

「すみません」

「このままじゃァ歩きにくいでしょう」


 と、ミナトは二人の肩に両手を置いて《瞬間移動》をした。

 これによって、三人はジェラルド騎士団長から三メートルほどの距離まで一瞬で移動した。

 サツキがジェラルド騎士団長の元まで歩み寄り、片膝をついて、ジェラルド騎士団長に手を触れた。

 ジェラルド騎士団長は仰向けに倒れているため、正面から左胸に触れた形である。ただし、その手は拳になっている。


「《痺レ拳エレキテルバレット》」


 軽くグッと拳を押しつける。

 ビリッと、弾むように身体が跳ねた。まるでAEDによる電気ショックを受けたかのようである。

 ごほっ、と少しばかり血を吐きながら咳をして、ジェラルド騎士団長が目を覚ます。

 サツキは、ジェラルド騎士団長のまぶたが開いたのを見て、声をかけた。


「俺たちの勝ちです。ジェラルド騎士団長」

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