174 『ディフェンシブソード』

 ミナトはジェラルド騎士団長の次の強さを見た。


「へえ。いやあ、まいったなァ」


 ジェラルド騎士団長のバスターソードは、《賽は投げられたアーレア・ヤクタ・エスト》によって完璧な守りをしてみせ、ミナトの剣撃を防いでいる。

 このときジェラルド騎士団長に思考は入らない。

 防衛本能がバスターソードを無意識に動かし、ミナトの剣に確実に追いつく。

 これだけならまだこの状況を引き延ばし、その後サツキが回復次第二人がかりで崩しに行けると思っていたが、次の強さが垣間見えた。


「こんなことまでやれるんですか」

「我も知らなかった。この強さは、貴様が引き出したものだ。ゆえに、貴様の強さが貴様自身へも突きつけられたと思うがいい」

「そんな。謙遜です、それは。あなたの強さはあなたのものでしかない」


 そのジェラルド騎士団長の強さとは、オートマチックな防御に加えて、それをしながらミナトへも攻撃をできることだった。

 バスターソードがミナトを斬りつけようとする。

 これをミナトがかわして、別の場所に現れ、ミナトの剣が伸びると、バスターソードはそれもしっかり防御してくるのである。これまではミナトの神速を相手に、守りに徹するような戦い方になっていたものが、攻撃もしてくるようになったというわけだ。

 しかもバスターソードはどんな攻撃をしてどんな軌道を描いても、その身に危険が迫ると、つまりミナトの剣がジェラルド騎士団長を傷つけようとすると、一転して急に守りの形に変化する。

 サツキが言った。


「以上。これが俺の気づいたこと。そして最後の一手までの道筋だ」

「なるほどねえ。でも、あの人も進化してる。いけるかな?」

「大丈夫だ。ジェラルド騎士団長はあの完全な防御を実現するために、現在思考を放棄している。そのジェラルド騎士団長が攻撃してくるんだ、思考もなにもない剣だと思う」

「ああ、そういうことか」

「ただ、防御に思考を割かないだけで、攻撃に思考を集中することで、余計な思考を挟まずに済む……とか、そんな都合のいい機能があるのかどうか。そこまではわからないが」

「だったら平気かもね」

「なぜ?」

「だって、《賽は投げられたアーレア・ヤクタ・エスト》は相手にも自分にも行動の変更をさせない、ギリギリを強要する魔法ってことだろう? 本来これは防御特化の魔法じゃない。むしろ、あの人の強さは攻撃にこそある。相手の選択を見てから後出しで自分の狙いを決められる」

「確かに。強みはそっちだったな。でも今は、『逆に』防衛本能で完全な守りに徹してしまっている。それは防衛本能に頼っているってこと。思考の介在があればそれは不可能になってしまうからだ。でも、それじゃあ……」


 サツキはとある可能性に気づく。


 ――それじゃあ、本当に怖いのはこれから。ジェラルド騎士団長が守りを捨てたとき。防衛本能を捨てきったとき、絶対に捉えるためだけの剣が相手じゃあ、ミナトでも……。


 捨て身のスタイルになったら、そのときが最後。

 どちらにとっても最後。

 どのみち最後のときになる。


 ――しかし、ジェラルド騎士団長もすでに右胸を刺されている。これ以上の傷は命にかかわる。そんな無理はしないと思いたいが……。


 そこまでサツキが想像したとき。

 ミナトの剣がジェラルド騎士団長の豪腕によるバスターソードで防がれ。

 ミナトが《瞬間移動》で消えて。

 ミナトが別地点に現れ剣を振ったところで。

 ジェラルド騎士団長のバスターソードが防御するように動き。

 しかしジェラルド騎士団長はクワッと目を見開く。バスターソードが防御の形に到達した瞬間、バスターソードはミナトへの攻撃に転じた。

 防御を捨てたのである。

 これに気づかぬミナトではなく、口元には苦笑が浮かんだ。


 ――まいったなァ……。軌道修正は、利かないんだよねえ。

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