170 『クリアリクエスト』

 リディオの《電送作戦トランスミッション》は魔力の電気信号化と人骨の振動板的役割で成り立っている。

 このとき、術者・リディオの身体に触れていれば、そうしている人物もリディオが通信している相手の声を聞けるのである。

 だから、リディオがラファエルの手を握り二人共が会話を聞けるようにしてくれていたのだった。

 ラファエルは口元に手をやり、つぶやく。


「確かにそうだ。『支配』は束縛か司令か。どっちの意味も持つ。ボクらは魔法情報を知っていたからその性格を気にしなかったが、そこは極めて重要なポイントだったな……」

「どうやってわかったんだ? サツキ兄ちゃん」


 サツキはリディオの問いに答える。


『ジェラルド騎士団長の言葉の端々からそう読み取ったに過ぎない』

「さすがだな、サツキ兄ちゃんは!」


 リディオは素直に笑顔でそう讃えている。

 しかし、ラファエルは少し気になる。


 ――慎重なサツキさんなら、言葉の端々のほかにも、別のアングルからも論理を裏づけそうなものだが。まあ、戦っている本人が確認が取れたとして満足したのならいいか。


 とにかく今はサツキも戦闘中。

 時間の猶予はそうないだろう。

 伝えるべき情報はまだ伝えていない。

 ラファエルは言った。


「サツキさんの洞察力なら、教えるまでもないことかもしれませんが。一応、それぞれの魔法について追加情報があります」


 普段、通信役は《電送作戦トランスミッション》の術者であるリディオに一任するラファエルだが、ここでは自らもサツキに話しかけた。

 ちなみに、《電送作戦トランスミッション》は術者・リディオに触れていれば通信相手の声も聞こえるが、こちらからの声もリディオが魔力に変換して相手に送ってくれるのだ。


『聞かせてくれ。俺がわかっているのはそこまでなんだ』

「教えられるのはあくまでシステムの部分です」

『そうか。じゃあ、俺から質問する。気になるのは、《賽は投げられたアーレア・ヤクタ・エスト》はただ自分で判断してから動くだけじゃなく自動的な反射で動けてしまうのか。そして、《独裁剣ミリオレ・スパーダ》はジェラルド騎士団長が支配したものの情報を読み取ったり行使できたりするのか、その裏を取りたい』

「サツキさんは本当に話が早いですね。明確なリクエストです。それらであれば教えられます」

『助かる』

「まず、《賽は投げられたアーレア・ヤクタ・エスト》は本来自ら考えて行動を選択しますが、ジェラルド騎士団長に限らず人間は自らの意志を超えて身を守る行動を取ることがあります。つまり、攻撃時に自動化した行動はありませんが、守りにおいてはオートマチックに防御行動が発生します。これを攻略するには思考を超えたスピードかつ、相手の反射神経ではカバーできない攻撃をすることです」

『うむ』


 それによって、ミナトはジェラルド騎士団長を刺した。

 ミナトはそこまで考えずにサツキの動きにピタリと合わせてくれたものだが、結果的にそうした複雑な要素を突破したのである。


「また、《賽は投げられたアーレア・ヤクタ・エスト》は、実はジェラルド騎士団長自身も行動の変更ができません。スイッチ不可。それがサツキさんの言う異常な速さ、豪速の剣を創造する条件です」

『なるほど。だからギリギリまで引きつけてから剣を振っていたのか』

「それもありますし、ギリギリまで見てからのほうが確実に仕留められるからというものあるでしょう。一石二鳥の行動というわけです」

『そうだな。そこまでは考えが及ばなかったよ。有益な情報だ』

「はい、それならよかったです」


 ラファエルに言われるまで、あの速さを実現するためには条件付けがある、という可能性を考えてもみなかったらしい。元々が豪速だっただけに、あれほどの速さを見せられてもそこまで不思議に思わなかったのだろう。

 さっきラファエルが「支配」の意味を一つしか考えなかったように見落としはあったというわけだ。だが、ラファエルのそれは固定観念であり、サツキのそれは甘い見立てをしなかっただけ。そこに落ち度もない。ないが、これを知ったことでサツキが得られるメリットは小さくない。

 ただし。

 緻密といえば緻密。

 ジェラルド騎士団長にとって、ギリギリまで相手を見極めることは理に適ったことであり、ギリギリまで見極めたあとの動きには自分も相手も動きを変更する余白などほとんどないのだから。

 よほど緻密な動きによってしか、そこを急所に突破は厳しいだろう。

 条件付けがわかったとて、これだけで攻略できるほどジェラルド騎士団長にはデメリットじゃないのである。

 こっちの魔法については聞きたいことはもうないようで、サツキは話を先に進めた。


『次は、《独裁剣ミリオレ・スパーダ》か』

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