168 『ミーニング』

 サツキはジェラルド騎士団長の「支配」が持つ性質を推定した。

 魔法《独裁剣ミリオレ・スパーダ》による「支配」の意味は、束縛。

 ただ束縛するだけ。

 意のままに動かすことはできない。

 支配したものの性能を把握することもできない。

 おそらく、断定こそできないが、高い確率でジェラルド騎士団長は「支配」を束縛の意味で魔法にしている。

 そして。

 今の状況。

 ミナトがジェラルド騎士団長と戦い続け、サツキはこの無敵にも思える相手を攻略する道を探していた。なにか攻略の糸口はないか勘考する。


 ――俺はまだ、左目を奪われただけであるとも言える。この「支配」はジェラルド騎士団長の管理下に置かれた以上の意味はなく、別の言い方をすれば、左目の指揮権こそ失ったが所有権は失っていないとも言える。


 ややこしい言い方になるが、あくまでこの場合の「支配」ならそういうことになる。


 ――それがどんな意味を持つかはまだわからないが。そういうことだ。


 もう少し、突き詰めて考えてもいいことなのだろうか。

 そう思ったところで、サツキの元にアシュリーが駆け寄ってきた。


「サツキくんっ」


 アシュリーがサツキの帽子を取って、


「大会のときも見たけど、この中に魔力を回復するお菓子があるんだよね」

「ああ、そうでした」

「それで、少しでも、魔力だけでも、まずは回復させておこう?」

「ありがとうございます」


 サツキが帽子の中に手を入れて、《りょく》を取り出した。サツキの帽子は四次元空間のように物体の収納ができる。数に限りがあるが、ここに《魔力菓子》はあった。

 バンジョーお手製のお菓子であり、食べれば魔力を回復させられる。ミナトのリクエストでヨウカンになっているおかげで栄養補給にもいい。ヨウカンはエネルギー摂取の効率がいいのだ。

 ヨウカンを包みから出そうとして力が入らずサツキがもたつくと、アシュリーがヨウカンを包みから出してくれた。それを口元にもっていく。


「はい。どうぞ」

「一人で食べられます」

「自分で包みも開けられないのになに言ってるの。はい、あーん」


 こんなところで介護されるのは情けないとも思ったが、サツキは観念した。あむ、と食べさせてもらう。

 ミナトはサツキのことはアシュリーに任せるとして、ジェラルド騎士団長に向かって言った。


「ここからは一対一になりますか。でも、やるなら早いほうがいい。動けば動くほど傷が開きます。僕としては早々に決着をつけ、治療して差し上げたい」

「自信に満ちたことだ。しかし、心配には及ばん。我も時間をかけるつもりはない。貴様を倒し、城那皐にも降参を宣言させる」

「じゃあ、始めますか」

「来い!」


 パッと。

《瞬間移動》で、ミナトが消える。

 ジェラルド騎士団長はミナトの位置と剣を察知すると、バスターソードを振り回した。

 後出しじゃんけんよろしく見てから動いて間に合うバスターソード。

 豪速のバスターソードをも神速でかわし、次の剣を繰り出すミナト。

 二人の剣の応酬はとてつもない高速を極めた。


「まいったなァ、僕の両腕が戻り。あなたが傷を負って。それでようやくパワー勝負は互角ですか」

「いや。速さで我が勝るゆえ、貴様の剣は我に劣る」

「そんなことないと思うけどなァ。速さじゃァ負けません」


 ミナトがそう言って、


「!」


 ジェラルド騎士団長が反応できない一撃が飛んでくる。右の太ももにスパッと傷ができる。血は噴く。が、傷は浅い。


「ゼァァ!」

「おっと」


 今度は互角のパワー勝負に変化が起きる。剣と剣がぶつかった際、力で押し合うところがミナトは完全に弾かれてしまった。

 パワー勝負ではまだジェラルド騎士団長に分があるらしい。

 くるくると回転して飛ばされて、空中で《瞬間移動》を使って消えて、ジェラルド騎士団長の真横に現れて斬りかかる。

 これもジェラルド騎士団長が防御して、二人の打ち合いが続いた。

 サツキが二人の戦いを見ていると。

 リディオから通信が来た。


『聞こえるか? サツキ兄ちゃん。ある人物について、情報を仕入れた。急いで伝えておきたい』

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