166 『コンピートストレングス』

 サツキの剣、《どうおうげき》は切断性が低いが剣で殴りつけるような高威力の攻撃である。

 火力こそ《どうおうげき》に劣るが、《おうれつざん》は切断性も優れている。

 狙いによって使い分ける二つ。

 今、サツキは《どうおうげき》を選択した。

 つまり、ジェラルド騎士団長とパワー勝負をしようというのである。


 ――受けられようと、力で凌駕する!


 バスターソードがサツキの《どうおうげき》を受け止めた。


「はああああ!」

「ゼアァァァ!」


 パワーはほぼ互角。

 が。

 サツキの剣がやや押されている。

 そこに、ミナトの剣が繰り出された。


「《天一神なかがみ》」


 背後からのひと突き。

 簡単にサツキの剣を払えるほどにパワーに差はなく、ミナトの剣は恐ろしく速い。まさに神速。

 これをジェラルド騎士団長が察知し、見切り、反応しようとしても。同時に対応するのは無理だろう。


 ――阿吽の呼吸。見事だ。


 敵二人を内心で讃え、ジェラルド騎士団長は吠えた。


「ゼアァッ!」

「うぁっ!」


 サツキが後方へと吹き飛ばされる。

 力比べは、ジェラルド騎士団長が制したのだ。

 岩壁に激突したサツキの手から剣がこぼれ、背中の壁は大きくへこみ亀裂が入っていた。

 もっと言えば。


「僕の剣を、よけませんでしたか」


 ミナトがそう言って、ジェラルド騎士団長の右胸を刺す。

 胸から血を噴きながらもジェラルド騎士団長は答えた。


「我の判断は正しい。まずはしろさつきを倒し、いざなみなと、貴様を倒してフィナーレだ」

「まいったなァ、刺したのにこうも気丈とはねえ」


 ジェラルド騎士団長がバスターソードを振り回すと、ミナトはもう消えていた。近くにはいない。《瞬間移動》でサツキの横まで飛んでおり、壁に強く叩きつけられてがくりと頭を下げていたサツキを助け起こしていた。


「大丈夫かい? サツキ」

「……う、……うむ。まだ起き上がれる」


 しかし、サツキはミナトの介添えがないと起き上がれそうには見えない。まだ目を閉じたままうつむき気味だ。

 ミナトはサツキを壁に背をもたれさせるように座らせ、立ち上がった。


 ――サツキはその左目の《賢者ノ石》でまだ回復できる。少しは時間がかかるだろうが、しゃべれたし大丈夫。あとは回復を待つのみ。対して、あの人は胸を刺されている。勝負はあった。


 ジェラルド騎士団長が右の胸に手を当て、つぶやく。


「ここまで盛大に刺されたことなど、グランフォードとやり合っていた頃以来か」

「そうでしたか。でしたらジェラルドさん、もう降参したらいかがです? あなたの騎士道は僕もサツキも感じられた。サツキはじきに回復する。そうなれば、二対一ではあなたに勝ち目はありません」


 薄々、ミナトも予想していた。

 否、次にジェラルド騎士団長が言うことなどわかりすぎるほどわかっていた。

 それは。


「無理な相談だ、誘神湊。我が本当に戦えなくなってからでないと、降参はできんのだ」

「そう言うとは、思ってました。ねえ、サツキ。僕は――」


 ミナトが振り返り、座っているサツキを見下ろす。

 そして気づいた。


「……サツキ、その左目」

「うむ。られたらしい」


 どんな苦境でも、ミナトは自分の不利を悟りひるむことなどなかった。だが、サツキのピンチに平静が揺らいだ。


 ――これじゃあ、回復できない。自己治癒を促せない。ここから僕一人で戦わなければならないのか。


 サツキは左目を抑えて言葉を続けた。


「俺は確かに結構ダメージを受けた。左目もられた。だが、もう立ち上がれないわけじゃない。魔力だって尽きちゃいない。俺はまだ、全力全開での一撃を放てる」

 それも、できて一度だろう。

 ミナトはにこりとうなずいた。


「そうか。わかった。じゃあ、サツキはその一撃にのみ備えてくれ。ここからは僕がやろう」

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