157 『プロフィットアンドリーズン』

 最強の盾と剣であること。

 そして、別々の場所で共に王家を守ること。

 それを誓い合ったというジェラルド騎士団長とグランフォード総騎士団長。

 ミナトは微笑した。


「へえ。それは重畳。奇遇ですね、僕も最強の剣を目指す者です」

いざなみなと。貴様も最強を目指すか」

「はい。そのために旅に出ました。そのためにグランフォード総騎士団長を目指しています。そのためにサツキの側に……いえ、それは最初のことで。サツキは相棒だから、どこまで共にゆくと。今ではそんな気持ちでいます」


 ふん、と。

 ジェラルド騎士団長はミナトの剣をバスターソードで受け止めた。

 また消えては別の角度から現れたミナトを完全に捉えている。


 ――王女姉妹のためじゃなく、しろさつきのためか。最強を目指す以上に、城那皐が大切なのか。だから、その瞳は危険なのだな。守るための自己犠牲がなく、高みを目指し、城那皐と共にある。


 その心は。


 ――理でも、利でも動かない。意地か信念か、はたまた友情なのか。それのみで動いている。だからつまらぬことでなびかない。


 それが、旧友の軍師に似ているのだろうか。

 いや、彼は。

 彼はただ、王家大事の人だった。

 どんな理も利も通じない。

 だれより理を知りながら、王家のためにはそれ以上の理を打ち出してみせる。

 なにかが欠落しているが、一本筋の通った精神力。

 そのせいで、彼はブロッキニオ大臣の脅威となり、今は隠居という意表を衝く仕業であえて王家から離れているようだが。

 この少年、誘神湊もまた、そうした危うさを背中合わせに生きているように見えてならず、なかなかどうしておもしろいとジェラルド騎士団長は思うのだった。


 ――城那皐も利では動かぬであろう。が、理を説けば付け入る隙もあるやもしれん。それに引き換え、誘神湊のような人間は至極厄介。


 こんな相手との戦いは、一度始まれば、ただでは引き返せないものだ。

 決着がなければ終われない。

 それも甘いものでは済まされない。

 しかし、実はジェラルド騎士団長も気づいていない。

 ジェラルド騎士団長もまた、誘神湊と同じであり、すなわち理でも利でも動かぬ、敵から見たらひどく厄介な相手であることに。


「ミナト!」


 距離を詰めてきていたサツキが、ミナトの名を呼ぶ。


「うん」


 と、うなずき、ミナトが消えた。

 サツキが剣を振る。

 しかし、ジェラルド騎士団長がそれを受けるための挙動をまるでしない。

 それも当然だ、とサツキは思う。


 ――ミナトの神速に対応できる速さ。そんなの、俺相手じゃギリギリまで動かないよな。でも……!


 ミナトがジェラルドの左後方に現れる。

 そのときには、ミナトの剣はジェラルド騎士団長に斬りかかっていた。

 ジェラルド騎士団長はどうするのか。

 どちらにどの順序で応じてくるのだろうか。

 結果は。

 意外にも、サツキからだった。


「ゼアァ!」


 バスターソードがぐるりと回って、サツキを薙ぎ払う軌道を描く。

 これをよけるためにサツキが下がり。

 続くバスターソードの軌道は、ミナトをそのまま薙ぎ払うものだった。


「これも力業だねえ」


 ミナトは消えるしかない。

 得意の《瞬間移動》で特異に消え。

 バスターソードが通り過ぎたその場所に、再び舞い降りる。

 同時に剣も抜き放たれていた。

 剣は、ジェラルド騎士団長の脇腹に当たった。

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