146 『ホワイトマタドール』

 バンジョーが飛び出す。


「オレが相手になってやるぜー!」


 そこに、サヴェッリ・ファミリーのマフィアは銃を撃ち込もうとしていた。


「来たか」

「士衛組の料理人だったか? お呼びじゃねえんだよ」

「こっちの狙いは城を奪うことだからな」


 ロマンスジーノ城から、バンジョーが一歩外に出た。

 グラートが声をかける。


「バンジョーさん、そのまま真っ直ぐ、あの方を」

「押忍!」


 銃弾が撃ち放たれる。

 そのとき。

 バンジョーが拳を振りかぶる。


「だアアアア! 《スーパーデリシャスパンチ》!」


 ここで、銃弾はバンジョーの額を貫くはずだった。

 しかし、結界のバリアが広がって銃弾が弾き飛ばされる。上方に跳ね返った。アーチ状の見えない壁に弾かれたような形である。

 そしてそのまま、バンジョーは結界破りをしようとしていた構成員を殴り飛ばして。

 残る四人は銃弾が弾かれたことに目をしばたたかせ、我に返った最初の一人をバンジョーが投げ飛ばして別の構成員ごと吹き飛ばす。


「《デリシャス背負い投げスペシャル》! おおりゃあああ!」


 あとは二人。

 うち一人が銃を構え、もう一人が慌ててナイフを取り出した。


「下がってください」

「なんでッスか!」


 グラートの言葉にバンジョーが振り返ると。

 すでに、グラートはバンジョーのそばまで来ており、城の外にまで出ていた。

 銃弾を防げないところまで来ていると思われるが、さっきはバリアが銃弾を弾いたし、バンジョーにはグラートがここまで来ても大丈夫なのかよくわからなかった。

 また、銃弾がどこまで通るのか、わからないのは構成員の二人も同じである。

 が。

 味方の構成員が三人もやられて、バンジョーとグラートを前にしたら、銃を撃つしか彼には選択がなかった。


「う、うおおお! くらえええ!」

「残念ですが……」


 グラートは、腕にかけていた白い布を手に取り、ひらりと舞わせた。まるで闘牛士マタドールが突っ込んでくる牛をひらりとかわすように、白い布は軽やかに鮮やかに宙を泳いだ。


「おおお! すげー!」


 バンジョーが感嘆の声を大にする。

 このひと払いで、銃弾も弾き飛ばされてしまったからである。


「今ですよ、バンジョーさん」

「おっ、押忍! 押忍!」


 言われて、バンジョーは驚異的な瞬発力で敵の手首を取り、ぐるぐると回してから投げ飛ばした。


「飛んでけえ! 《ハンマー投げスペシャルスペシャル》!」


 ポーンと音が鳴りそうなほど見事に発射され、構成員の一人が飛ばされてしまった。

 これで、残ったのはたったの一人。

 グラートは白い布を見せるようにして構え、相手を牽制する。


「ぐぅ」


 ひるんだところを、バンジョーがすかさず殴った。


「おりゃっ! ビクビクしながら銃なんか握んな! 危ねえ」


 最後の一人も頭を殴られて気絶して、ものの三分としないで全員を倒し尽くしてしまった。


「お疲れ様でした、バンジョーさん。さすがの判断力と瞬発力です」

「押忍! でも、最初はなんで銃弾が弾かれたんですか? あと、その白い布もすげーッス!」

「最初のあれは、結界の領域を広げたに過ぎません。厚さをほんの五十センチほどだけです。これによって、あなたに銃弾がぶつかるその少し手前で、銃弾は結界に弾かれた。次の発砲までの時間で、あなたなら一人か二人は倒せると思ってのアシストです。まさか、そのあともアシストなしで残り二人にまでするとは思いませんでした。バンジョーさんの運動能力の高さは、せいおうこくに聞く忍者のようです」

「オレは忍者の末裔ですから! 一応、フウサイのやつと同じ里にちょっとだけいたこともあるんスよ」

「どおりで。あの機敏さだったわけですね。私がそのあとに使った白い布も、あなたなら助けが要らなかったかもしれません」

「あ、そうです、それなんスか?」

「ただの魔法の一種です。《防衛結界セキュリティー・スタンツァ》には、そんな技もあるのですよ。ただただ、魔法でも物理的な攻撃でも単なる物体でも、なんでもひらりと払い飛ばせる。それだけです」

「おかげで助かりました!」

「あとは、結界破りの巧者が来ることもないでしょう」

「押忍! じゃあ、オレもみんなを探しに行ったほうがいいッスか?」

「いいえ。大丈夫でしょう。私と共にここを守っていただけると助かります」

「わかりました!」

「来る敵を迎え撃つ。それだけです」


 ロマンスジーノ城の守りは、グラートとバンジョーの二人によって守られていく。

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