139 『セキュリティーネット』
中でも、《
説明を聞き、リラはうなる。
「怪異を使って拐かして誘う、ですか。すごいですね」
「誘われて出てきた彼らにはもちろん自我もあるし、なぜこちらに来たのか、自分でもわからへん。いや、なんとなくの理由付けはあとからされるんやろ。あっちが怪しそうやった、とか」
「では、それを使えば、わたくしたちもだれかと出会えるのでしょうか」
「いい考えや。けど、ごめんな。近くにいる相手にしか使われへんねん。もうちょい言うと、《
「わたくしの仕事が少なかったのも……」
「よう気づいたな、リラはん。せやねん。途中で報せてもろたんで、リラはんが顔を出して変に相手の動きが予想不可能にならへんよう、うちが始末させてもろたわけどす。そんなわけや、リラはんは活躍が少なかったいうても気にせんとき」
「は、はい」
まったく気にしないわけにはいかないが、リラは少しホッとした。
このあと、リラとリョウメイはマノーラ騎士団にサヴェッリ・ファミリーの構成員五人を引き渡して治療もしてもらい、その場を離れるのだった。
リョウメイはチラと振り返って、ひとりごつ。
「玄内はんが結界の解除に気づいて出てくるのがいつになるかわからへんけど、あの異次元の嗅覚を持つお人やし、事態の異変には気づいているやもしれんな」
「なんですか?」
なにか言われたのかと思い、リラがリョウメイに問うた。
これにリョウメイは首を横に振る。
「いいや。なんでもあらへん」
「そうですか」
「まあ、うちらも頑張りましょ。くせ者が暗躍しとるようやし、そっちもなんとかせな。いいようにやられてまう前にな」
「くせ者……いいように……それって、鷹不二氏のこと。ヒサシさんたちのことですね」
少し前、リョウメイは鷹不二氏と碓氷氏のライバル関係と両陣営が士衛組を味方にしたい旨を教えてくれた。
中でも『茶聖』ヒサシはくせ者だとも話していたのだ。
鷹不二氏も碓氷氏も士衛組を好ましく思っていて将来性を見込んでいるからこそ、味方にするために今のうちに恩を売りたいとのこと。
今はその絶好の機会で、両陣営は士衛組に味方してこのマノーラでの戦いに参加してくる。
事実、リラの知る限りそうなっている。
だから、鷹不二氏にも碓氷氏にも都合よく恩を売りつけられてしまわないよう気をつけなさいとリョウメイは助言してくれた。
――一応、リョウメイさんの陰陽術、未来が視える《
それでも、いいようにやられてしまうというのは望ましくない。
「よう動いとるみたいや。雅人のくせにフットワークの軽いお人やで」
「わたくしは、なにをすればよいでしょう?」
「……前も言うたけど、うちに聞けば碓氷氏の都合のいいように転がってまう」
「はい……そうでしたね」
「他、士衛組と奇遇にも合流した鷹不二氏の面々は鷹不二氏のために動いとるし、うちだけ遠慮するのもお人好しが過ぎるか……」
「?」
「占うとな……」
じゃらっと、リョウメイは数珠を鳴らす。
「あとはそう遠くないうちにこのマノーラでの戦いも終息する。大きな戦いが三つ、四つ残ってるくらいか。やっておきたいのは、例のくせ者の制御と成果の横取り阻止」
ついでに、とリョウメイは思う。
――ついでに。リラはんの活躍の場をつくること。これは友情と歌劇団に協力してくれたお礼からや。で、あとはあの手この手を使って、あの子らにも手伝ってもろうて、鷹不二氏と碓氷氏の士衛組への貢献度を五分五分にもっていく。
今回はお茶を濁して。
玄内からの返礼を碓氷氏がもらうだけにする。
それがちょうどいい落とし所だとリョウメイは考えた。
「わかりました。では、どこへ行きましょう」
「ひとまず、士衛組のだれかと合流や。おそらく、うちらが次に会うのは……」
リラへの政治的な手ほどきも省略し、目的地を定め移動する。
――玄内はんへのお節介はリラはんが見てくれて、証人になってくれた。玄内はんにとって専門外のこの結界の解除も、得意分野であるうちが綺麗に解除したった。これだけで玄内はん個人への恩着せは充分やしな。
あとは玄内のタイミングに任せたらいい。玄内が外に出たら解決が早まるだろう。
それまでに、鷹不二氏を相手にするだけでいい。
そして。
玄内が馬車から出てきたのは、それからわずか十分としない間のことである。
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