133 『ジェネロシティ』
角からやってきたのは、ルカのよく知る相手だった。
いや、知っているようでその実あまり知っていることは多くないのかもしれない。
いくつもの顔を持ち無量大数の如き底知れない魔法の数々を持つ。そんな相手……。
「……先生」
その人は。
姿形は人間のそれではなく、二足歩行の大きな亀のようでいて、中身は年齢不詳ながら中年かあるいはそれ以上のダンディー。
『万能の天才』玄内。
士衛組のご意見番で魔法や戦闘の指南役である、ルカたちには先生と呼ばれる存在。
玄内は気さくに声をかけた。
「よお」
「まさか……『万能の天才』玄内さん!」
ヤエは、予想外の人物の登場に面食らった。
――こげなところで出会えるなんて! こん人がおったら、すべてが簡単に解決してもおかしくないほどに、万能。こりゃラッキーやったね、ルカちゃん。
さっそく。
ルカは疑問を呈した。
「先生はどうしてここに……?」
「おれは基本的に士衛組の戦いではおまえらを見守り、あんまり手出しはしないと言った。そのことか? それとも……どうやらうちの馬車がサヴェッリ・ファミリーに押さえられ、おれを別荘との行き来ができないようにしたのに、今ここにいることについてか?」
玄内が冷笑した。
「馬車……そんなことになっていたんですね」
「ああ」
「先生が馬車で別荘に行っていたのは知っていました。けれど、緊急事態でもあったため、私たち外にいる者だけでやれることをやるつもりでした」
「正しい判断だな。だが、おれも外に出たばかりで状況がいまいちつかめてねえんだ。教えてくれるか?」
「もちろんです」
今度はヤエに一瞥くれて、玄内は語を継いだ。
「悪いが、そっちの事情と情報も話せる範囲で教えてくれや。おれでよけりゃあ、あとでちっとは恩返しもしてやる」
「わ、わかりました! ぜひ!」
玄内自ら恩返しをしてくれると申し出てくれたのは、ヤエにとっても僥倖というものだった。
――あの『万能の天才』に恩ば売っとくことも、大将たちがこの戦いでしたかことのはず。ラッキーなんはあたしだ。気前のよか人ばい!
でも、わからないこともある。
――ばってん。なして、玄内さんは士衛組ん戦いは見守って手ば出さんなんて言うんやろう。やっぱり、サツキくんの威光ば示すため、かな?
実は、すべてが玄内によって簡単に解決されたら、アルブレア王国の新政権は国民を納得させられないのだ。
もし玄内の力だけでやり切ってしまうと、国民は国家を他国の者の手で悪意ある大臣から取り返してもらった意識が残りつつ、その主導者・玄内が次には大臣から権力を奪い意のままにしてしまう恐れを持つ。
素直に歓迎されるストーリーじゃないのである。
だからこそ。
クコとリラという王女姉妹、そして彼女たちを統率する存在であるサツキが活躍して初めて、苦難の末に王家が実権を取り戻すストーリーが鮮やかに描かれ、国民が納得して、国民が団結して、国民が喜んで、国家と王家に尽くし、王家の統治もしやすくなるのである。
しかしそんなことは、玄内だけが知っていればよいことで、士衛組の頭脳であるサツキとルカも理解しているから、それで充分だった。
むろん、政略眼を持つオウシやヒサシ、ミツキらはその程度の政治は知り抜いているのだが。
ヤエはただ自分の幸運を喜んでいた。
「それでは、話しながらルカちゃんの案内に従って仲間との合流を目指すのがよいのではないですか?」
「そうですね。先生、構いませんか?」
ルカに聞かれ、玄内は言った。
「ああ。行くか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます