123 『セカンドポイント』

 フレドリックは魔法《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》を使って、剣でサツキの肩口を突き刺した。

 予想外の攻撃に、サツキは「……うっ!」と小さな悲鳴を上げるのだった。


 ――どうして、魔法が……?


 魔法は、発動しないはずだった。

 ほんの少し前に、《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》は解除したからだ。

 しかし剣は大きくなった。

 大きさは四倍くらいだろうか。

 両者の距離は三メートルもある。

 なにも条件は満たしていないはずだったのに、どうして剣は大きくなったのだろうか。

 そう思ってサツキがフレドリックの剣を警戒し構えたとき、とある魔力反応を確認する。


 ――なん、だと……? 地面に、魔力がある。あそこにポイントをつくっていたのか。


 魔法《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》は、術者・フレドリック自身と対象物の間でのみ発動するものである。

 対象物はフレドリックが選定し、そこは魔法の発動条件を満たすためのポイントになる。

 ポイントとの距離が二メートル以内では物体を大きくでき、二メートルから五メートルの間では物体を小さくできる。五メートル以上では魔法は発動しない。

 そのポイントをサツキは自分の刀につけられてしまい、解除のタイミングを見計らってカウンターを決めらることに成功したのだが。

 今度は、フレドリックが別のポイントをつくっていたことで返り討ちに遭った。


 ――別のポイントをいつつくったのかだが……。俺が刀のそれを解除してからはその余裕はなかった。見逃しはない。つまり、同時に二つのポイントをつくっていたことになる。


 フレドリックも傷を負っているため、追撃はやや鈍い。

 それでも気迫で剣を伸ばしてくる。

 サツキは痛みを堪えてフレドリックの剣を一つ払うと、距離を取った。

 下がれば、フレドリックの《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》は発動の射程圏外になる。地面から五メートル以上が安全地帯なのだ。

 追いすがるフレドリックと剣を交えて、サツキは力を振り絞って、


「《どうおうげき》!」

「くっ!」


 フレドリックはサツキの剣を受け、構えたまま下がった。

 苦し紛れなところはあるが、サツキは《波動》をまとった剣を振っていたから、フレドリックも受けるのがギリギリだったらしい。

 その少しの安堵をしたとき。

 再び銃弾が飛んだ。

 よける体勢にはない。

 手傷を負ったあとで、ジェンナーロの手元の確認ができていなかった。


 ――まずいッ!


 絶体絶命。

 サツキが息を呑んだところで。

 音が鳴った。

 銃声から一秒としない。

 ほんのわずかな間に、音がした。

 今度は金属音だった。

 激しく強く、切れの良い音だった。

 その音とほとんど同時に、サツキの目は魔力のシルエットを見ていた。

 目の前に現れたシルエットを読み取った。

 人型のシルエットは、サツキのよく知る相手のものだった。

 ゆるりとした穏やかな声でする。


「やあ。苦戦しているらしいね、サツキ」

「助かったよ、ミナト」

「うん」


 士衛組の壱番隊隊長にしてサツキの相棒。

 同い年の天才剣士。

『神速の剣』いざなみなと

 空間の入れ替えが起こったらしく、それによって、ミナトもサツキのいるエリアに飛ばされたらしい。

 ミナトには《瞬間移動》という魔法があり、これで一瞬にしてサツキの前に現れ、銃弾を斬ってみせたのである。

 銃弾を斬る程度なんてことないようで、ミナトは涼しい顔をしている。

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