110 『メガロマニア』
士衛組をかけて、鷹不二氏と碓氷氏が争う。
その構図が避けられないことは、リョウメイがサツキとミナトそれぞれに助言したときには視えていた。
サツキとミナト、二人を引き合わせるような助言。
王都でそれを二人それぞれに示した。
これは二人にとっての最良を考えての餞別であったが、士衛組をかけて鷹不二氏と競う未来も覚悟の上だった。必ず士衛組の存在に鷹不二氏は気づき、士衛組を見初め、これをものにしたいと考えるのは、《
だから。
リョウメイには深謀遠慮を巡らせていたこともある。
――もし鷹不二氏の手にミナトはんが渡れば、碓氷と
碓氷氏が天下を治める最後の一手にして、最終手段。
残る鷹不二氏の勢力の駆逐は事後処理に過ぎない。囲碁で言えばヨセのような白黒ハッキリさせる最終確認なのだ。
ゆえに。
こうした現実味のない奇策は、しかし唯一無二の最良の一手になる。
ただしこれらは碓氷氏が士衛組を鷹不二氏に取られたときに考えるようなことで、今は単なる妄想にしかならない。今考えるべきではない。
――けど。ミナトはんはもちろん、サツキはんとリラはんっちゅうんは、不思議な魅力を持った人物やで。
彼らのなんとおもしろいことか。それほどの価値を彼らは感じさせてくれる。彼らのためならそれほどしなければならないと思わせてくれる。
さて、とリョウメイは思案する。
――誇大妄想は一旦仕舞いや。士衛組への打算は無しとして。うちはうちで、鷹不二氏の賢人たちの策謀だけは崩し去っておかな。でなきゃ、ほんまに誇大妄想を実行せなあかんくなるわ。そういうわけやから、思い切りやったり。サツキはん、ミナトはん。
士衛組局長・
今日何度目かになる魔法現象。
目の前には道幅の広い簡素な通りがある。マノーラらしく歴史を保存したような古めかしい景観は、ここでいっそう古めかしくなる。
ルネサンス期の美術作品を見るようだった。
まるで絵画の世界を、人々も騒々しさもすべて、そこに再現したみたいに絵になる景観であった。
絵にするモチーフなど、むろん現実だけではない。
宗教的な絵画が当時は求められることも多く、天使や神も存在し、群集はしばしば大げさな身振り手振りで騒々しさを誇張する。
それと今見える景色は同じだった。
特に、先に見えるあの様が顕著で。
混沌というより、混乱だった。
しかし今そこにあるのは何者かが意図的に起こした混乱であり、それをした人間は当然、天使や神の存在であるはずがなかった。
彼らはマノーラの敵であり。
紛れもなく、サツキたちの敵なのだった。
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