103 『サードアイ』
チナミとオリエッタの戦いは、ブリュノの《
先に動いたのは、言うまでもなくチナミである。
ブリュノが右肩まで《
そこを狙って、オリエッタはついに銃を取った。
――やっぱり銃。
そう判断すると同時に、チナミはオリエッタにも手裏剣を投げていた。
オリエッタに銃を構える時間を与えないために。
どうもオリエッタはイーザッコほどの早業で銃を構える技術はないらしい。
しかしそれでも、オリエッタは手裏剣を正確によけた。
――私が手裏剣を投げたタイミングじゃなければ、このコンマ数秒の遅れがなければ、銃は払い落とせていた。でも、結果として銃を手に握らせてしまった。それでも、ここまで彼女に銃を使わせないことには成功していた。最初に手裏剣を見せたのは案外正解だったみたい。
銃を手に取らせない牽制として、チナミの手裏剣は役立っていたらしい。
図らずも、それがチナミに観察と分析の時間を与えてくれる主要因になってくれていたようだった。
それがわかったところで、しかし遅い。
すでに、銃はオリエッタの手の中にある。
あとは、いかに構え、いかに狙うか。
またチナミ側は、いかに回避し、いかに反撃するか。
――初動は私が勝てるけど、そのあとは向こうが早い。それに、向こうには第三の目『サードアイ』がある。
オリエッタの銃弾を回避しながら、チナミは手裏剣を投げた。
しかしすべてよけられる。
その回避能力は、オリエッタの機動力ではなく目によって成せる技だ。
そしてチナミは『サードアイ』の正体を見抜いていた。
絶対とは言い切れないが、その効果の最たるものがなんなのか。その点については、確信があった。
――すべてを見切るその『サードアイ』。私の奇襲に気づき、私の剣にも対応するその目。おそらく、それは目を複数所持していることによる。
人間は通常、目を二つを持つ。
第三の目という意味を持つ彼女の異名『サードアイ』は、常人の所有する二つ以外の目を指し、おそらくそれは人体の外にある。
人体じゃない場所に、目がある。
――どこにその目があるか。場所は、二つ見つけた。
チナミは観察の中で二つ発見できた。
――目は、たぶん絵かシールになってる。
建物の壁にある目の絵がそれで、近づかないとただ壁に描かれたものかシール状になって貼られたものなのかは判別できないだろう。
――複数の目によって見られる視界は、空間把握能力を著しく高める。いつか、サツキさんが私に教えてくれたように。
以前、サツキとチナミは忍術について話したことがあった。
あれはいつだったか。
イストリア王国に着いたあと、『
火山の見える港町で、『
そこで、サツキと将棋を指しながら話をした。
「忍術は忍者しか使えないものじゃない。訓練次第でだれしも使えるようになるらしい。先生も使えるそうだ。先生曰く、士衛組だと、適性のあるチナミなら数ヶ月でいくつかものにするとも言っていた。忍術も魔法も根は同じだから、皆伝されてきた数式を使えば使える魔法ってことになる。それを忍びが皆伝し使うから『忍術』と特別な呼ばれ方をしているだけだって話だ」
「確かに、魔法も習得できます。バンジョーさんもさっきおじいちゃんの《
「うむ。訓練と適性は大きいらしいが、環境が育て忍者をつくるということも言っていた。その中で、《
「なんですか」
「この術は、二人以上の分身体をつくる。そして分身体を一つの頭脳で動かす。本体がそれをするんだ。このとき、分身体の持つ視野は共有される。別の場所にカメラを持ち、別の肉体もコントロールするわけだ」
「はい」
「そうするとなにが起こるか。実は、空間把握能力が高まる」
「……? そうなのですか?」
「うむ。先生によるとな。片目を閉じた状態で遠近感がつかみにくくなるように、人間の目は二つで補完される。目が横についている草食動物は視野を広げるために精密な空間把握能力を持たず、正確に獲物へと狙いをつける肉食動物は目を正面に持つだろう?」
「なるほど。いくつかの目で同じものを見ると、遠近感が補強される。そういうことですか」
「察しがいいな。さすがはチナミだ」
「はい」
と、少し照れた返事をした。表情には出ないが褒められたうれしさが顔や声に出ていないかと思い、少し視線を下げる。
「まさに《
「フウサイさんはすごい忍者です」
「うむ。最高の忍者だ。そのフウサイも《
確かに、と納得した記憶。
その記憶が、『サードアイ』との関係性を見つけたのである。
――『サードアイ』はパフォーマンスを最大限に高めるための複数の目。その目をつぶす。
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