91 『バイタイム』

 ヒサシの選択や行動は、その一つ一つが敵にももちろん、味方にも素直に読めないものとなっている。

 その肚を晒すこともない。

 常に上手に包み隠している。

 しかしそれが読み解けようが読み解けまいが、彼の選択や行動の一つ一つは戦局に作用してゆく。

 それも、時に急所を捉え、時に結果を変える。

 彼が棲むせいおうこくの新戦国の世はそうした世界なのだ。

 修羅をすみに、生死を分ける選択の連続で生きている。

 そんな世界が厭わしくも愛おしく、そんな世界で思案を巡らせることが、ヒサシにはたまらなくおもしろかった。茶人という政治家に、その道楽はあまりに刺激的だった。

 そしてまた。

 この目で見てきた晴和王国の武将たちと比すると、城那皐と士衛組は大変に興味深く味わい深い組織といえた。

 オウシのような肩入れやスサノオのような傾倒はしないが、自他双方の評価から士衛組を見積もっても目をつけるにふさわしく、目の前にそんなオモチャがあって無視できるはずもない。


 ――ボクたち鷹不二が欲しいのは『ASTRAアストラ』じゃなくて士衛組。大将はやけに士衛組を贔屓してるし、実際あの『神速の剣』ミナトくんとは同じ学び舎の友だちだっていうし。


 だがそれだけじゃなく、それ以上に慧眼を持ってして、オウシは士衛組に未来を見ている。

 士衛組に期待しているらしい。


 ――彼らへの大きな期待は、きっと当たる。大将の感覚は信用できるから。ボクも彼らをまだまだ吟味しかねていて、期待していて、茶々を入れつつだけど楽しみに見守りたいと思ってる。


 ヒサシはそれゆえに、まずは今一番近くにいる士衛組の一人・ヒナを吟味していた。


 ――ヒナくんも見ていておもしろいしねえ。まだなにもこの子の資質や輝きが見られてないのに、なんだか目が離せない子だしさ。


 現状では士衛組を知るには情報が足りなさ過ぎるヒサシだが、ヒナ一人を見るだけで士衛組の一端が見えるような気がしてくる。


 ――士衛組にはきっと、こんな面白味のあるいろんなメンツがそろっているんだろうねえ。ますます恩を売りつけておきたくなるじゃない。で、どんな恩を売るかだけど。


 それは難しくない問題だった。


 ――ボクたち鷹不二は武力ではなく情報戦を制するのがもっとも感謝されるだろうね。そうすれば士衛組に花を持たせられるからさ。それこそ、最高のアシストをされたら頭が上がらなくなるでしょ。


 かくして。

 ヒサシが士衛組のために情報収集する時間を稼ぐ気になったのは、そんな訳だった。

 時間を稼ぐための破壊クラックだった。

 すべては鷹不二氏と士衛組のために、そんなことを演繹したことによるのである。

 恩を売りたいはずのサツキとロメオの手間をこっそりちゃっかり増やしつつ、自分たちが成果を出して感謝されることわりは、悪意のない妙手でありヒサシなりの誠意でもあった。

 味方を出し抜いてそんな演算をして実際に魔法を駆使し行動する点、ヒサシは実にくせ者だった。

 それはヒナが思っている以上だろう。


 ――そして。ここでの情報戦を鷹不二が制すれば、ついでに『ASTRAアストラ』にも恩を売りつけられる理屈で。その恩返しがまた美味しいんだよねえ、これが。『ASTRAアストラ』は組織最大の魅力である情報力を貸してくれることになるんだからさ。士衛組と『ASTRAアストラ』、両方と育む友情。うん、素晴らしいねえ。


 だが。

 ヒサシは知らなかった。

 オウシの読みはもっと先の先まであり。

 このあと、とある人物と一戦交えておこうと思っていることを。

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