44 『リターンドラゴンフライ』

 スモモは、すらすらと紙に文字を書く。


「みんなに報告しておかなきゃだよねえ、あのシスターのこと。名前はヨセファ。『洗礼者』って言ってた。《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》の効果も書いて、これによるシスターの役割も書いて、あとはこいつを逃がしちゃったことを書いてっと」


 追記で、クコが赤ちゃんみたいに幼児化したことも書いた。

 次に、書いた物をトンボの柄の封筒に入れてゆく。

 その封筒を創る度、封筒をワープさせていった。


「お兄ちゃん、ミツキくん、ひーさん、ヤエちゃん、チカマルくん、サツキくん、ミナトくん、リラちゃんにやれば充分だよね。ゴスケさんは頭使うの苦手だしこのあとも敵を見つけたら勝手に戦ってもらうとして、士衛組の情報共有は『ASTRAアストラ』が補完するでしょ」


 口の周りにアイスをつけておいしそうに食べるクコを見て、ヤエはハンカチで口周りを拭いてやる。


「おいしい?」

「おーいちー!」

「そう。ご機嫌でなによりだよ」


 この間にも、スモモの目の前に封筒が現れた。さっき送ったばかりのトンボの柄の封筒である。


「あ、戻ってきた」

「なぁにー?」

「これは、《蜻蛉とんぼがえり》って魔法」

「まほー?」

「わたしは手紙とか物をワープさせられるんだけど、このトンボの柄の封筒は特別製で、受け取った相手が開封して、次に閉じたら封筒が戻ってくるわけ。つまり、返信を書いて入れたら相手からもわたしに手紙が送れるの」

「かぁーいぃー!」


 封筒を手に持って高く掲げるクコ。


「可愛いかな? 普通のトンボの絵だと思うけど。相手も言いたいことがあればこれを使って手紙を出せるから便利でしょ? 普段、みんなに一つはこの封筒の予備を持たせているの。ミツキくんなんかは本当の緊急時じゃないと予備は使わないって言って、こうやって《蜻蛉とんぼがえり》の封筒を使ったときだけ返してくれるんだよね。ミツキくんには予備に二つか三つ持たせてるのにさ」


 と、スモモはクコの手から封筒を取り上げ、中身を開く。


「やっぱりミツキくんだ。て、シスターの特徴をもっと詳しく書いておいてくれとか、士衛組に《蜻蛉とんぼがえり》を送るなら使い方の説明もちゃんと書くようにとか。たいした用事じゃないじゃん」


 しかし、スモモは手紙の下部に目を通して口を閉じる。


 ――サツキくんかロメオさんを探すように、か。サツキくんのグローブにはロメオさんの魔法と同じ効果があるから、それでクコちゃんにかかった魔法を打ち消す。他者にかけられた魔法ってことで、ひーさんの領分かわからないし、あの二人のどっちかに当たるのが無難だね。


 スモモはクコに言い聞かせるように、


「クコちゃん。これから、サツキくんかロメオさんを探すよ。いい?」

「うん! くこ、しゃちゅきしゃま、だいちゅきー!」


 とクコがはしゃぐ。


「サツキくんのこと大好きなんだねえ」

「だいちゅき! しゃちゅきしゃまー、いまいきまちゅよー」

「あ、こらこら。勝手にどこか行かない。わたしから離れないで」


 一人でトコトコとサツキを探しに行こうとするクコを止めて、スモモはクコの手を握っていっしょに歩き出す。


 ――士衛組とは仲良くしておきたいってミツキくんもお兄ちゃんも言ってるし、ミナトくんとは昔馴染みだし、わたしもそれには賛成だけど……。まさか、こんな幼児みたいな連れができるとはねえ。


 スモモは笑いたいようなため息をつきたいような微妙な気持ちで、サツキあるいはロメオを探すことにした。

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