21 『イントルーダー』

「アルブレア王国騎士」

「そういうことや」


 驚くリラと、わかっていたかのようなリョウメイ。


「なにか知っているんですか? リョウメイさん」

「悪いな、リラはん。うちが知っているんはなにかが起こるっちゅうことだけや。あとは、わずかな情報から予測できることも、ないではない。くらいのものや」


 サツキは臨戦態勢に入ると、相手の騎士が名乗りを上げた。


「おれはアルブレア王国騎士・フレドリック! 貴様が城那皐か?」

「はい。俺が士衛組局長、城那皐です」

「話に聞いていたのと違うな。貴様の左目には、魔力の塊が見える。コロッセオの試合中にも左目が光り輝いていたとの報告もあったが、魔力が蓄えられているのか」

「……」


 そこまで見破られているのは意外だった。


 ――俺の左目の本質は、昨日の試合を見ていたたくさんの観客もわかっていないはずだ。だが、魔力が蓄えられていることまでバレている。つまり、この人はなんらかの方法で、今、俺の左目の力に気づいたことになる。


 たった今、サツキを見て「話に聞いていたのと違うな」と言ったのだ。今、なんらかの方法で見破られたと推定される。

 サツキは瞳を緋色に光らせ、フレドリックを見た。


 ――なるほど。


 フレドリックの目を見て、サツキは理解した。


「あなたの目には、普通の人以上の魔力が集まっている。あなたも、目に関する魔法を使えるんですね」

「ご明察。さすがは士衛組局長。しかし、ここで終わりだ。この新進気鋭の騎士・フレドリックが、国家に反逆する組織の主導者である貴様を捕らえ、リラ王女を奪還する! 大丈夫、このおれに捕らえられるのだ。貴様が辱められることはない。光栄に思え」


 冷静に分析すれば、フレドリックにはサツキと同じく魔力の可視化ができるとみていい。それ以外の特徴はわからないが、それ以上をあまり感じない。


 ――新進気鋭と自ら言うだけあって、単身乗り込んできたり、功に焦るようなところがうかがえる。その警戒心の薄さは、まだ十代の後半くらいに思える若さも手伝い、彼の未熟さを示している。もし自信家なこの人がより強い魔法を持っていた場合、自らの魔法のすごさをアピールしているはず。つまり、この人はその目に特殊な仕掛けを持っていない。


 となると、実力で戦うだけだ。

 ちょうど、サツキに背を向けたところだったスサノオだったが、彼は振り返ると、フレドリックを一瞥するや、


「月を見て、スッポンを見し空虚さよ。うぬのさえずりは愚かしく耳障りだッ! 消えろッ! 我が庭園を汚す無法者めがッ!」


 苛烈な言葉で叱責するスサノオ。

 直後、ゴォッっと風が束ねられ、竜巻が起こる。

 しかしあまりに美しく、しなやかだった。

 巻き上がった風に乗ったフレドリックは、いずこへ飛んでゆく。

 おそらくこれは、スサノオの魔法であろう。強いかと言えば、あまりにも強すぎる。

 呆気に取られているサツキとリラに、リョウメイが言った。


「スサノオはん、気が短いねんか。せやから普段ならもっと派手にやるんやけど、今日はサツキはんとリラはんに会ってご機嫌やったからこのくらい穏便に済んだんやで」

「お、穏便……」


 どこも穏便には見えないリラだった。

 サツキも、スサノオの雅やかさから苛烈さへの一瞬の変貌に面食らうが、同時に側に控える執事・ゲンザブロウがこんなときにも柔和な微笑みを絶やさないことにも感心してしまう。


 ――スサノオさんもいろいろとすごい人だけど、笑顔でいられるゲンザブロウさんも大概だ。


 リョウメイがサツキに言った。


「まあ、実力ならサツキはんが二、三枚上手やったし戦う必要もない。どうせ、パッと見て分析できたことがすべてや。まだ整ってないようやし、無駄に戦うのはあとでよろしいわ」

「あとでって、どういうことですか?」

「さっきも言うたやろ? これからひと騒動起こる。そこで、リラはんがどうしたいかやけど……もう時間はないか」

「リョウメイッ! 無駄話はよい。貴様、余にも話してないことがあるな?」


 苛立ちを含んだとがった声のスサノオに、リョウメイは飄々と答えた。


「ただの占いどす、スサノオはん。関わるかどうかはうちら自身が選べる。なぜなら、これから起こるそれはサツキはんらの問題やからなあ」

「貴様の考えを述べよ」


 ピリピリした空気をつくるスサノオだが、リョウメイはにこやかにサツキとリラを見て、


「平気やで。気難しい人やけど、これで冷静なんや」

「無駄口はよせ」


 リョウメイはスサノオに向き直る。


「おそらくスサノオはんなら感じてはると思いますけど、あの『青き新星』もこのマノーラには来てはる」

「いかにも。感じていたぞ」

「彼らは事件に関わっていくことになる。事件は大きく、彼らの登場だけで安心安全に済むほど楽ではない。せやかて、関わる必然もない」

「……」


 くいと、スサノオはあごをあげる。続きを話せというのだ。

 しかしリョウメイはニヤリと口元をゆがめた。


「時間どす」

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