156 『サクリファイス』

 サツキの《波動》が強まっているのは事実だった。

 それどころか、かつてないほどの力の高まりである。


 ――左目が疼く。なんだか、力があふれかえって、制御できない感じだ。魔力の暴走……なのか?


 力をコントロールできないかもしれない。それをサツキ自身が敏感に感じ取っていた。

 おそらく、ミナトも肌感覚でサツキの魔力が強くなっていることに気づいているだろう。あとはツキヒが波長の変化を読み取っている。

 ヒヨクもツキヒから注意喚起されているから、サツキの《波動》には警戒を強める。


「宙に浮かされていたサツキ選手が、ヒヨク選手をパワーで牽制したー! 魔法の解除もして、地面に降り立ちました! サツキ選手の吹き飛ばすという宣戦布告にもしびれますが、《波動》の力もかなり高まっているようです! サツキ選手の左目がキラキラと真っ赤に燃えて、存在感というかオーラのようなものが大きくなっているように思います! ヒヨク選手はそんなサツキ選手を相手に、またつかみ取り制することができるのでしょうか! 一方で、ヒヨク選手に注意喚起しつつもミナト選手を相手取るツキヒ選手ですが、こちらは厳しそうだぞ! ミナト選手に斬られた両肩は大きな痛手だ!」


 ミナトの剣を、ツキヒは受けるのがやっとだ。

 心臓を狙って《シグナルチャック》を発動させたいが、逆に《シグナルチャック》で牽制してミナトの剣を受けられるようにする、守りの戦い方がやっとの状況だった。


 ――くそう、これじゃあ攻められない~。《シグナルチャック》を決めたいのに、こっちを使ってなんとか守るしかできないなんて~。


 やはり、先程ミナトに斬られた両肩が効いている。


「《きょうすいげつ》」

「いなせだねえ、その剣。おもしろい」


 見えるが捉えるのが難しい剣、《きょうすいげつ》。透かすように相手の剣をかわして斬り込むのを得意とする技だが、ミナトは見切っているわけでもないのに受けきってしまう。


「よっと」


 ツキヒの長巻を弾き、隙ができると。

 パッとミナトが下がり、


「《い・てんらい》」


 いつの間に鞘に収まったのか、納刀した状態からもうすでに構えが取られている。

 気づくと、ツキヒの真上から攻撃が落ちてきた。


 ――上から居合いって、自由すぎ~。立つ方向無茶苦茶なのはヒヨクだけで充分なんだけど。


 肩を斬られた分、真上からの攻撃に対して、上に向かって剣を振るのはキツい。しかも、上からパワーを増して打ち落とされた剣を、受けなければならない。ツキヒにはかなりの負担がかかる。


「重い~」


 かろうじて反応はできたが、とても受け切れたとは言えない。腕には力を目いっぱい込められず、ぐらりと体勢が崩れる。

 それでも、身体への直撃は免れた。


「いやあ、お見事」


 ミナトがくるりと身を横回転させて転がるように降りて、横に一閃。

 流れる高速の動きに、ツキヒは対応が遅れる。追いつかないと言った方が正確だった。

 スパッと、ツキヒの胴が斬られる。


「痛っ」


 容赦はしてくれている。しっかりダメージを与え、ひるませることが狙いであるらしい。


 ――ミナトは本当にヤバイくらい強い。最強だよ、こんなの。だから、おれは捨て身で行くしかない。


 ツキヒはまたミナトに斬りかかられたとき、長巻を手放して《シグナルチャック》を繰り出した。


「出たー! ツキヒ選手、《シグナルチャック》を両手で使ったー! ミナト選手が圧倒していた真剣勝負でしたが、ミナト選手の右手が、止まったー! 《シグナルチャック》発動だー!」

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