135 『チェンジプラン』
ツキヒが両手で長巻を構え、ミナトの攻撃に備える。
ミナトは右手で突きを繰り出した。
――両手持ちだし、《シグナルチャック》はない。どこかを触ったような挙動もなかった。いける。
そう思ったが。
長巻を握る手のうち、右手の人差し指と中指がミナトに向けられた。
――来るのか。
本来のミナトの突きより、身体が開く格好になってしまう。
それでもギリギリでよけられた。
――どこの機能を止める信号なんだ? それ以上に、両手で剣を握ったままでも繰り出せたんだねえ。そっちのほうが厄介だ。
これによって、指を立てられる方向にいる時には一層の注意が必要となる。
――発動条件の指は、人差し指と中指の二本。これらの指は、剣を握ったままだと外には開きにくい。代わりに、いくらでも内側に折ることができる。もし右手だけとかなら片側に入ればいいんだけど、どっちの手でも《シグナルチャック》は出せた気がする。つまり、どの方向に立っていても簡単に狙われてしまうのかァ。
対面にいる限り、どれくらいの角度にいようといつでも発動させられる範囲にいることになる。
――《シグナルチャック》を発動しようとしたら、その分やや柄の握りが甘くなるから、その瞬間を狙えば力で押しやすくなる。でも、指を引っ込めて握るくらい一瞬でできる。とはいえ……。
ミナトがツキヒの魔法を意識するように、ツキヒもミナトの魔法を意識しているはずなのだ。
――僕はツキヒくんの《シグナルチャック》で心臓などの重要な機能を止められないことを最重要視して、多少の剣撃なら《すり抜け》でかわさせてもらおうかな。
そんなことを考えながら、ミナトはツキヒの長巻を相手に戦う。互いの剣が乱れ、互いの魔法を警戒しながら隙を探る戦いだ。
対するツキヒが考えることは、やはりミナトの魔法だった。
――やっぱりさっきのは、半透明化するようなものだろうな~。
ツキヒの剣をかわした正体は、半透明化の魔法だと予想される。
――だとすれば、かなり面倒な戦いかも~。
戦術の変更が必要なのだ。
――実は、おれがさっきからちょくちょく見せてる指の動き……あれはブラフ。まだどこも触ってない。つまり、発動準備ができていない。
身体の一部に触れることで下準備が整い、指先を向けて信号を飛ばすことで、その部分に作用する魔法だからである。
――でも、この戦い方は半透明化には決定打を与えられないんだよね~。
なぜなら、いくらブラフの《シグナルチャック》で隙を作っても、半透明化されたら斬ってもダメージを与えることができないからだ。
――《シグナルチャック》を警戒して大胆すぎる攻撃はしないでくれてる。なのに、攻め切れない。どのみち隙がないから作戦失敗かな? すごいな~。
ヒヨクと二人でミナトを相手にしていたときは、たまに片手持ちで《シグナルチャック》を仕掛ける隙を見つけられた。しかし、一対一ではそれも簡単にはできない。どころか、両手でしっかり握らないとパワーで剣を弾き飛ばされそうになる。
――普通の刀より長巻のほうがパワーは出るのに、さすが『天下五剣』を持つ天才剣士。しかも、半透明化で剣同士の戦いなら無傷。これって無敵じゃない? それに引き換え、こっちはいつ斬られてもおかしくない。
剣士がミナトに剣術では勝つことは、《すり抜け》がある限り物理的に不可能なのだ。
人体の接触が《すり抜け》の対象になるかはさておき、ツキヒに残された勝ち筋は《シグナルチャック》だけになる。
――心臓でも止めて意識を飛ばし、戦闘不能にするしかないか。今やってるみたいに《シグナルチャック》をブラフに使っても、ダメージは与えようがないわけだしね~。
最後に《シグナルチャック》を成功させないと意味がない。それがツキヒとミナトの魔法の差であり実力の差でもある。
――ミナトを相手にしながら、一度左右両方の手で心臓に触って下準備を整える必要がある……か。結構しんどいかも。でも、やるしかないよね。
お互い手の内を隠しつつ、探りつつ、どちらが優勢か見えにくい戦いが繰り広げられてゆく。
そんな二人を尻目に、サツキとヒヨクは情報量において差があった。
ヒヨクがなにを隠しているのか、サツキはまだほとんどわからないのである。逆に、ヒヨクにはサツキの持つおおよその魔法と技がわかっていた。
「サツキくん。先に言っておくよ。今回のぼくは、以前のぼくとは違う。それは異なる魔法に目覚めたとかじゃなくてね。同じ魔法なのに、使い方や性質、目に見えるものから実感することまで、まるで違うと思ったほうがいい。今回は本気で勝ちにいくから、覚悟してくれ」
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