124 『バンテージジョイント』
クルメンティスの証言により、彼の魔法が判明した。
それは、相手を包帯のように固定する魔法である。
ロメオは自分の身体で感じた異変から、より精彩に理解する。
「なるほど。ワタシの魔法解除を避けるために、手を封じるように身体を固定した。おそらく、魔力反応の感覚から、関節に作用している」
「やるじゃん。さすが、伊達に魔法を打ち消すなんて大層な魔法を使うだけあるよ。魔力反応に関しちゃあ感度がいいぜ。そうだよ、関節を固定するってのがメインの使い方だ」
「つまり、ワタシは肩や肘や手首など、いくつかの関節を固定されて、動けなくなっているということですね」
「そういうことさ。だからロメオさん、あんたは突っ立てるだけになってんのよ。関節が可動できないってのは、人間で言えばすなわち動けないってことにほかならない。人形遊びをしたことあるか? 人形も人間と同じさ、関節が動かなきゃ身体は動かねえ。操り人形も関節を糸で吊って操るように、関節が固まれば動きが取れなくなるってことだな。ついでに、腰も固定したから腰をひねることもできねえぜ」
ドヤ顔で説明したクルメンティス。
クロノは言う。
「《バンテージ・ポイント》恐るべしー! 包帯で巻くようにポイントを固定する魔法だが、特に関節を固めることでより大きな効果を発揮するようです! これによって、ロメオ選手は動けなーい! あの『バトルマスター』が動けなくなる場面を、だれが想像したでしょうか! しかも、魔法戦士でもない一般の青年がそれをしてのけると、だれが予想できたでしょうか!」
口をゆがめ、クルメンティスが小さくあごをあげる。
「もうわかったよな? 自分の立場がよ? なあ、現『バトルマスター』のロメオさん?」
「……」
「今日から、いやこの試合のあとから、その称号はぼくのものとなる! 正直さ、かったるかったんだよ! あんたの人気を見て、栄光を見て、その座を奪ってやりたいって思ったが、シングルバトル部門で一から五十勝を重ねるってかったるいだろ! このぼくが、なんで雑魚と戦わないといけないんだ? だが、ちょうどいいチャンスが巡ってきた。最初からあんたをやれる。今日はツイてる。こんな機会普通ないぜ」
「……」
「どうだ? 『バトルマスター』の称号とお別れする心の準備はできたか? ロメオさん。できたら言ってよ。それまで待ってやるからさ」
クロノが悔しそうに実況を挟む。
「ロメオ選手、打つ手なしか!? 無敗神話がこんなところで破られてしまうのか!? その強さを見せてくれ! 打開策は本当にないのかー!?」
この間にも、ロメオはじっとクルメンティスの動きを観察していた。
動こうとしてみたり、その時の反応をうかがってみたり、なんとか活路を見出そうとしていたのだ。
――少し、わかったことがある。まず、クルメンティスさんの《バンテージ・ポイント》は、本人の言うように包帯で固定するものだ。ただし、その包帯にはいくつかの特徴がある。
その特徴をさらう。
――まず、包帯は見えないが、比喩の通り、そうした形状を有したイメージによって創られていること。
ロメオは身体を動かそうとしてみて、確認する。
――次に、包帯は一本の長い紐を模していること。身体を動かそうとすると、テーピングに反抗するような感覚がある。しかし、同時にそれは全身にも引っ張られる感覚として連動してゆく。
これが意味するのは、包帯が一本につながっていることである。言い換えれば、何本もの包帯でそれぞれのポイントを固定しているわけではない、ということだ。
――身体に触れる魔力の感覚も、この可能性の高さを後押ししている。
魔力反応には人一倍敏感なロメオだからこそ、「関節を固定するには余分な魔力が、身体のあちこちにかかっている」ことも把握できたのだ。
最後に、クルメンティスのほうに見られる特徴がある。
――そして、彼はずっと不可解な動きを見せている。左手の拳だ。なぜか、彼は左手だけ拳を握り続けている。拳が握られていることは、試合というシチュエーションを思えば特段不思議ではない。いつでも拳で殴りかかれるように、あるいは反撃できるように、拳を作ることは目立った違和感ではない。
ただそれだけならば、気にしなくてもいいかもしれない。
――だが、彼はワタシが身体を動かそうと力を込めたとき、左手の拳の握りが強くなっている。そう見える。彼はずっと左手の拳だけを握っていて、ワタシの動きに合わせて握りを強くしている。それには必ず意味があるはずだ。おそらく……。
客席が見守る中、クルメンティスがつかつかと前に出ていった。ロメオに近づきながら言った。
「あんたの時代、終わらせてやるぜ。今日からぼくが王様だ」
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