113 『エレクトリカルデバイス』

 ヒナはリディオの魔法について分析する。

 まず、事実として。

 リディオは離れた相手と会話できる。

 その際、口はしゃべっているみたいに動くが、声は出ていない。

 また、通信相手のいる方向に頭を向ける習性がある。

 つまり、相手の場所がわかることを意味する。それはおおよそかもしれないが、探知能力もあると思われる。

 この前提で詰めてゆく。


 ――リディオは声を『なにか』に変換できる。変換された『それ』は離れた場所に飛ばすことができる。その人の場所も探知できる。したがって、声を『人間が固有に持っているもの』に変換した可能性が高いわ。


 ここで、『それ』=『人間が固有に持っているもの』とする。

 次に、人それぞれに異なるが、だれもが持っているものを考えてゆく。


 ――変換されるものとして、魔力は微妙なのよね。魔力ならだれもが身体に流れているけど、あくまで魔力は声を『それ』に変換するための要素だと思う。


 受け取った相手もまた、魔力で『それ』を音に再変換すると考えられるからだ。


 ――ほかに、『それ』……つまり『人間が固有に持っているもの』として、心臓はどうかしら。固有の心拍数を持っている。音の波を探知するとすればあり得る……? 心臓の拍動が魔力を音の波に戻すとか? いや、心臓に別の音の波をぶつけるのはリスクかも。


 心臓の可能性は打ち消す。


 ――科学的に解き明かせると思ったんだけど、まだデータが足りなかったのかな……? 今のあたしにできるのは、これを考えるくらいなのに。それさえも、あたしには……。


 ヒナが諦めかけたとき、リディオの髪の先がビリッとした。それよりも、パチッとしたと言ったほうがいいだろうか。まるで静電気が発生したみたいだ。それを見て、ヒナは思いつく。


 ――今、だれかから声が届いた? リディオは……交信している! また口が動いたわ!


 いくつか可能性は考えられる。

 だが、髪の毛はセンサーじゃない。

 髪の毛がパチッとしたのは、不可抗力だ。


 ――そう、髪の毛はアンテナのように反応してしまっただけ! 相手の声を受信する際に、意図せずしてつい反応したんだわ! だとしたら……もしかして、『それ』って電気!?


 リディオは、今も口を動かして話しているのに声が出ていない。


 ――人間の身体には、ごくわずかだけど電気が流れてるってお父さんが言っていたわ! 電気信号が神経を伝って、脳と身体がやり取りをし、脳からの命令を身体が実行する。この電気に固有反応があるかはわからないけど、リディオには感知できるのかもしれない!


 それなら、『それ』=『人間が固有に持っているもの』=『電気』の方式も成り立つ。


 ――まるで音響通話装置みたいだわ! 音響通話装置は、簡易的なものでは二つのブリキ缶の底面にそれぞれワイヤーの端をつけてブリキ缶に声を吹き込む。そうすることで、ブリキ缶の底に当たった声の波形をワイヤーがそのまま伝えて、もう一方のブリキ缶で反響する。 


 サツキの世界では、それは糸電話としてよく知られ親しまれている。


 ――これと同じように、声の波形を魔力で電気に変換するんだわ! それこそがリディオの魔法! リディオは、電気に干渉する魔法の使い手なのよ!


 相手に飛ばす手順など、何度か電気と魔力での変換が行われるかもしれないし、実際の工程はもう少しだけ多いかもしれない。だが、おおむね合っているだろうとヒナは思った。


 ――そしたら、相手の声を受け取った際、どこかが振動しているはずよね。音響通話装置では、ブリキ缶の底面が振動板になっていた。人体のどこかがその役割をするはず。耳を澄ませて……。


 ヒナがリディオの身体から発する音に集中して、《兎ノ耳》の精度を高めてみる。


 ――ビンゴかも! リディオの骨が振動する音が聞こえる。へえ、そんなふうになっていたのね!


 すなわち骨伝導と呼ばれるものであり、ヒナは知らないが、イヤホンにも使われる技術なのである。サツキがいれば、サツキのいた世界にあったこうした技術も教えてもらえただろう。しかし、ヒナは自力でそこに辿り着いた。ヒナの推理はほとんどすべて的中していたのである。


 ――クコの《精神感応ハンド・コネクト》とはまるでシステムが違うわ。クコのほうは心の声を飛ばすっていう、科学的じゃない感じの魔法だし。でも、応用はできるかも。確か、サツキの世界にあったっていうイヤホン。クコのテレパシーを受け取るのに、あの形を模した装置をあたしと先生で創った。あれを耳の周囲につけられたら、音を拾いやすい場所に来るわよね。先生と相談すれば、もっといい装置が創れるかも! むしろ、ある程度なら科学だけでリディオの通信を再現できるんじゃないかしら……!


 アルブレア王国最終決戦で、ヒナの考案する装置が役立つことになる。

 しかしそれを完成させるには、研究と実験、そしてサツキの知識が必要になってくるのである。

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