106 『アナザードクター』
勝利したミナトは、『司会者』クロノからのインタビューに答えていた。もちろん、サツキの肩は抱いたままだ。
「おめでとうございます! すごい試合でしたね!」
「ありがとうございます。いやあ、危なかったです。サツキもこの通りボロボロで、力を出し尽くしたようです」
すでに気を失っているサツキはインタビューに答えることができないので、ミナトがこうして一人でしゃべり、クロノが質問していった。
「素晴らしい技の数々を見せてくださいましたからね! 一つ気になったことがあるのですが」
「なんでしょう」
「最後、ミナト選手はハルバードと位置を入れ替えられ、場外へと飛んで行きましたよね。どうして戻ることができたのでしょうか? みんなサツキ選手とカーメロ選手の攻防に夢中で、ミナト選手がどう復帰したのか見られていなかったと思います」
「見えていちゃあまずいですから、それならよかったです。ただ、僕の魔法に関わることなので秘密にさせてください」
「やはりそうでしたか! ワタシや会場が気づく日が来るのか。ミナト選手の魔法にはみんなが注目しています」
「ええ。刮目してください」
「さて。いよいよ決勝進出ですね。スコット選手とカーメロ選手に勝ったことは快挙だと思いますが、今のお気持ちは?」
「早くサツキに治療を受けさせてやりたいのですが、どうしたものか」
「そうですよね! でも大丈夫、医療班が待ち構えています! どこまで治せるかはわかりませんが、手を尽くしますよ! 次の試合に間に合うよう、まずは養生してください」
「そうさせていただきます」
「以上! ミナト選手のインタビューでした! さあ、このあとの予定を説明しよう。一時間のお昼休憩を挟み、十三時から午後の部がスタート! そこにはスペシャルゲストが登場してくれるぞ! そして、セミファイナル第二試合は十三時半から始まる! みんな、今からしっかり休憩して、午後に備えておいてくれよ!」
インタビューが終わり、ミナトはサツキを抱えて舞台を下りた。
舞台を下りたところに待機していた医療班がサツキを担架に乗せ、ミナトも共に移動した。
通路を抜けた先には、数人が待っていた。
その少し前――。
一階の観客席では、最初はサツキとミナトの勝利を祝っていたクコたちであったが、次第にサツキの容態が気になってきていた。
「ひとまず、乗り切ったね」とリラが言うとナズナが「でも大丈夫かな? 怪我、治せるかな?」と心配する。
チナミが「医療班がどこまでやれるか……」とつぶやき、ヒナは「あれは難しくない……?」と不安げな表情をした。ヒナの言葉に、アシュリーは「そんなぁ……」と眉を下げる。
これに対して、コロッセオの魔法戦士でもあるシンジたちは別の可能性について話していた。
「ボクは医療班にしかお世話になったことないですけど、ブリュノさんはどうですか?」
「同じく」
「アタシたちも、いつも《ダメージチップ》の魔法で怪我はしない戦いをしてるから」
と、ブリュノとバージニーも答えるが、マドレーヌは三人が言いたいことを代弁するように、
「ただ、コロッセオには医療班以外の医者がいる」
と言った。
黙っていたのは、ラファエルとリディオ、そしてルカである。
ルカは、士衛組において、『参謀』の役職にあり、サツキの腹心でありサツキの頭脳の補佐役を自認している。だから、試合に勝つことでの宣伝効果など、サツキに言われずとも知り尽くしている。
しかし、勝利はうれしくもあったが、ルカにとってはサツキという存在がなにより大事で、彼に無事でいてもらうことが一番なのだ。
それでも、医者の娘で、医術の心得があって、医学の勉強を続けるルカでさえ、サツキは治療できないほどにボロボロになっている。治す方法がないかをなによりもだれよりも考えていた。
その中で、気になっていたのはラファエルとリディオである。
――ラファエルとリディオ。二人は試合中、いくらサツキが傷ついても平気そうにしていた。サツキとミナトを友好的に思っている二人が、こんなに平然とできるのには理由があるはず。
すなわち、サツキを救う手立てがあると考えていい。
――今マドレーヌさんが言った、『医療班以外の医者』がそれである可能性が高い。おそらくそれは、闇医者。
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