97 『コピーアンドリクリエイト』
「玄内さんは、応援に行かなくてよかったのですか?」
現在ロマンスジーノ城で研究している玄内は、城の執事でもある老紳士・グラートにお茶を出してもらっていた。
玄内は呪いによって今こそ亀の姿をしているが、中身は年齢不詳のダンディーであり、食も人間の頃と変わらない。しかも、飲まず食わずで睡眠さえとらなくとも、少しくらいは大丈夫なのだ。
「真剣勝負におれが手を出すわけにはいきません。おれになにもできないなら、おれが行っても意味ないですから」
「しかし、今日対戦するスコットさんとカーメロさんは強いです。心配にはなりませんか」
「勝敗はあいつら次第。どれだけ知恵を絞り、強い精神力で戦えるかだ。が、その二人の魔法には興味がある。まあ、一時的に預からせてもらうこともできない。だからおれはあとであいつら二人に話を聞けば充分です」
「人や物を硬くする魔法《ダイ・ハード》と、人や物の位置を入れ替える魔法《スタンド・バイ・ミー》だそうですよ」
フッと笑い、玄内はお茶をすすった。
――そういや、レオーネの魔法《
玄内は、他者の魔法を没収する魔法《
しかも、術者である玄内には、その魔法情報を書き換えたりできる《
一応、《
これによって、ミナトは玄内に《すり抜け》の魔法を付与された。
――ミナトに与えてやった《すり抜け》には、透かせないものもある。ミナトはおそらく、《すり抜け》を使う状況に持ち込まれるだろう。そのとき、《すり抜け》の条件を見破られたら厳しくなる。《スタンド・バイ・ミー》でどうとでもできるからな。おもしろい試合にはなりそうだ。
当然、玄内は自身の管理下にある魔法なら、いつでも自由にすべて使用できる。
「お茶のおかわりを淹れましょうか」
「助かります」
そう言うと、玄内は飲み干した湯飲みに触れる。
すると、湯飲みが消えて、代わりにペンが手に握られた。
グラートが湯飲みにわざわざ手を伸ばすこともなく、彼の前に置かれる形になったのである。
「これは……」
「どうやら、例の魔法をおれも知っていたみたいです。いろんな使い方ができる魔法だ。あいつらも苦戦するでしょう」
まさにその《スタンド・バイ・ミー》を玄内が使い、グラートは驚いた。
だが、思い返せば、玄内がレオーネの《
――レオーネさんは相手の魔法構造を分析して原理を知ることで、その魔法を《
カード化した情報はレオーネの《
こうしたレオーネの《
――さすがに玄内さん。そのとき、レオーネさんがカード化したすべての魔法データのコピーをとっていたのか。
バックアップをとるのは当然だ。
だから、『万能の天才』と呼ばれる玄内には、試合を見ずとも二つの魔法の真髄までわかっていた。
「この魔法世界で、魔法は限られた人間しか使うことができません。どんな人間も自然と魔力は使っていて、強い筋力を引き出したり肉体の若さを保ったり、知らないうちにその力の恩恵は受けているそうですが、個別の特別な魔法を発現した者は人口一割程度と言われています。さらに、二つの魔法を扱えるデュアルは魔法を使える人の中でもさらに一割以下ですから、全人口からみれば一パーセント。三つ以上扱える者はごくわずかでしょう」
千人や一万人に一人かもしれないし、十万人に一人か、あるいはそれより少ないかもしれない。
「しかし、一つの魔法では工夫だけじゃあ欠点を補いきれない場合も多い」
「玄内さんは意図的にデュアルやそれ以上の人間を生み出せますが、サツキさんとミナトさんにはなにか魔法を与えたのですか?」
「ええ。おれの《管理者権限》で再形成したものですが、サツキにはあいつの《緋色ノ魔眼》を強くする補助パーツみたいなものを、ミナトには《瞬間移動》の弱点を補完するまったく別の魔法をね」
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