95 『イーザーバディー』

 一階の観客席で、この試合をチェックしているのは二組のバディーだった。

 この試合の勝者と次の決勝で戦うかもしれない二組であり、一方が前回大会準優勝バディー、『仙龍シェンロンえんとその弟子の『仙龍の爪ドラゴンクローおんである。

 老師と呼ばれる于淵は七十五歳にもなるが、この世界では魔力が肉体を若々しく保つ効果があるためか、現役でコロッセオを戦う力がある。ただ、それでも小柄でおじいちゃん然とした見た目だが。


「温韋、どうじゃ。どっちが勝つと思う?」

「はい。カーメロさんが覚醒したのは恐ろしいですが、まだ五分五分かと。ただ、決着はあと三十秒でつくとみます。サツキさんは片腕でもう戦えないでしょうし、ミナトさんは押され気味。あと三十秒以内にミナトさんが傷の一つも受ければ、カーメロさんが勝つものと思います」

「カーメロちゃんの優勢じゃが、あくまで五分五分とみるか。ふうん、ボキは違うと思うけどねえ」

「老師はどうみられますか?」

「ミナトちゃんが本気か本性を出すか次第で大きく変わるけど、勝つのがどっちかは変わらないねえ」

「それはいったい……」


 師匠の言葉を待つ温韋に、于淵はイタズラっぽく笑った。

 別の場所では、せいおうこくの美形コンビが試合を見守る。

『コロッセオの王子様』ゆうよくと『ようしゃ壬生みぶつき

 ヒヨクとツキヒは、一度サツキとミナトとも戦ったことがある。だから二人に期待していた。彼らと同い年という点も、ヒヨクとツキヒには特別な親しみを感じたせいかもしれない。


「サツキくんとミナトくんには厳しい展開になってきたね」

「だね~」


 ヒヨクの言葉に、ツキヒがゆるい返事をする。

 ツキヒは続けて言った。


「崖っぷちに立たされたっていうより、なんていうか、急に崖の上で戦う羽目になったみたいな感じ~?」

「気持ちとしてはそうかもね。相手が急に強くなったんだ。崖の上で戦うみたいに、ここからはあの三人のうちだれがどこで崖から落ちてもおかしくない」

「ヒヨク~。よくおれの比喩の意味がわかったね~」

「長い付き合いだからね。それより、カーメロさんの覚醒をどうみる?」

「強そう~」

「バトルスタイルと戦闘能力を評価するなら?」

「まあ、おれは謙虚だし偉そうな評価をするつもりはないけど、比較するなら外せないポイントがあるよね~」

「というと?」

「カーメロさんって、昔はシングルバトル専門の戦闘狂だったけど、ダブルバトルをするようになってバトルスタイルが変わったでしょう?」

「うん。サポート役に回って、視野が大きく広がり、《スタンド・バイ・ミー》の使い方がよりうまく、トリッキーなことができるようになった。武器の扱いまでうまくなった」

「器用な人が卓越したテクニシャンにまでなっちゃったわけで、これがまた戦闘狂に戻っても……その視野は健在、しかもテクニックに磨きがかかってる。これって最強じゃない?」

「かもね。じゃあ、ツキヒはカーメロさんが勝つと思う?」

「そうは言ってない。どっちも頑張れ~」


 ゆるい応援をするツキヒを見て、ヒヨクは苦笑した。


 ――実際、今目に見えているものがすべてなら、カーメロさんが勝つだろう。でも、ミナトくんに隠している力があれば戦況は変わる。そして、サツキくんになにができるかで、勝敗が変わる。


 ヒヨクは椅子に背を預ける。


 ――ぼくは、できればまたサツキくんとミナトくんと戦いたい。だからぼくは彼らを応援するよ。厳しいかもしれないけど、頑張ってくれ。



 舞台上では、ミナトがハルバードをよけて距離を取る。

 そこに追撃が来て、ミナトの剣がハルバードとぶつかり合った。

 また少し、カーメロのテクニックとパワーがミナトを追い詰め始めていた。

 アシュリーがか細い声でつぶやく。


「いつミナトくんの剣が弾かれちゃうか、心配だな。大丈夫だよね……?」

「きっと大丈夫です。ミナトさんには、サツキ様がついてますから」


 クコはサツキならなんとかしてくれると信じていた。だが、ここからの勝ち方がわからない。


「サツキ様は、なにか考えているでしょうか」


 先程から、サツキの力が高まっていることだけは伝わってくる。

 額を合わせることで身体の感覚を共有するクコの魔法《感覚共有シェア・フィーリング》で、いつもつながってきたからだろうか。サツキの《波動》の高まりが感じられ、クコはそれにも期待するのだった。

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