91 『アウトインヴァルナラブル』

 無敵と称された鎧を破壊され、肉体もズタズタになり、最後の一刀がスコットを斬った。

 特別大きな傷が肉体に走り、意識も薄らいでいく。

 そんなスコットに、ミナトが言った。


「《ダイ・ハード》、すごい力でした。『わのあんねい』が破壊されたときはヒヤッとしました。しかも、破壊だけじゃなくて傷を治すこともできる。無敵だと思った。でも、壊せないものもある。サツキの気持ちを壊せなかった時点で、僕たちの勝ちは決まっていたんです。また壊したくなったらいつでもお相手しますぜ」


 もう、スコットは声も出ない。


 ――オレは結局、勝ちたかっただけなのか……?


 ロメオに勝つために戦ってきたのは事実だ。しかしそれがスコットの一番の望みでもない。


 ――いや、違う。コイツが気づかせてくれた。本当は、だれかを助けるために強くなって、コロッセオで活躍する姿を妹に見せたかっただけだ。オレが好きで戦っていて、ファンもいて、なんだかんだ楽しんでるって姿を。……そう、オレは破壊がしたかったわけじゃない。


 自分がしたかったのはだれかを助けることで、壊すことじゃないと気づいたスコット。彼は意識を失う前に、一つ誓う。


 ――また出直そう。そして今度は、傷を治すためや人を助けるための使い方も考え直すか。来月には、妹も来るんだ。おかげで、楽しんで戦う姿を、妹に見せられそうだぜ、いざなみなとよ……。


 そして、スコットは完全に意識を失った。

 気絶は戦闘不能を意味し、その時点で選手は敗北となる。しかしそれはシングルバトル部門での話であり、ダブルバトル部門であれば、バディーの魔法によって再生することもあり得る。審判のジャッジが下るまでが再起の猶予となる。

 クロノが判断に迷ったその二秒の間に、ミナトが地面に倒れかけたスコットを場外に押し出した。

 スコットは気を失ったまま場外に倒れる。

 場外は例外なく選手の負けとなるため、クロノはジャッジした。


「斬られた最強の『かいしん』は、気を失った! そして、ミナト選手によって舞台の外に押し出された! よって、スコット選手場外! 残るはカーメロ選手のみとなったー! すごいぞ、このルーキーたちはーッ!」


 前回大会優勝バディーの劣勢、特に『破壊神』胴禁棲健斗ドーキンス・スコットの場外に、会場は沸き上がった。どよめきもあるが、ルーキー・ミナトの強さと活躍を喜び歓迎する声が多い。


「本当にやっちまったー! すげーぞルーキー!」

「おまえは天才剣士だー!」

「新たなチャンピオンの誕生なるかー!?」

「ミナトくんかっこいいー!」

「すごーいっ! ミナトくんこっち見てー! きゃー」

「いいぞいいぞ、ミ・ナ・ト!」

「ミーナート! ミーナート! ミーナート!」


 もちろんクコたちも、ミナトがスコットを倒したことを喜んでいた。アキとエミが「やったー!」と叫び、「バンザーイ」と手をあげると、バンジョーやクコもいっしょになって「よっしゃああ!」、「やりましたね!」とはしゃいだ。

 ヒナは早くも勝利を確信して「決勝よ!」と浮かれ、ナズナが「それまでに、サツキさんの腕、治さないと……」と別のことに気を取られる。チナミも「うん。今はそれがなにより大事」とうなずく。

 アシュリーは「息をするのも忘れちゃうくらいだったよ」と苦笑いし、シンジも「あのミナトくんの猛攻撃はすごかったしね」と笑う。

 そしてリラとルカも肩の力が抜けた。「あとはカーメロさんだけですね」とリラが言うと、ルカは「ええ。ひとまず山場は乗り越えたかしら」と息をつく。

 舞台上でも、たくさんのミナトコールを聞き、サツキも厳しい局面を切り抜けた実感があった。


 ――ついにミナトがやってくれた。すごい、本当にすごいぞ。でもまあ、あの『四将』と戦うんだもんな。これくらいやってくれないとだよな。


 一対一でミナトとカーメロが戦えば、おそらくミナトが勝つだろう。サツキの見立てでは、ミナトが本気で《瞬間移動》を駆使したらいくらカーメロでも対応できない。

 ミナトが剣先をカーメロに向ける。


「さあ。決着をつけましょう」

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