89 『ダッシュブレード』
サツキには、全方位が見える目《
物体を透過する魔法《
――やはり読みがいい。だが、手負いのキミでは追いつけない。
まだサツキの目の力に気づいていないカーメロは、サツキの対応力も読みのよさだと思っている。だから、いくつかのギミックを組み合わせて、サツキとミナトに遠距離攻撃を仕掛けるつもりだった。
そのファーストアタックとして、ナイフを投げる。
だが。
ナイフが手を離れたとき、ミナト対スコットの勝負が佳境に入ったのだと気づく。
――ヤツめ、早い。ほんの少しだけ、動き出すのが早かった。もう勝負を決める気か。
カーメロが次の手をどうしようか考える前に、ミナトが構えて言った。
「参ります」
「あの頂に立つのは、おまえらにはまだ早いぜ! 来ォォォオい!」
スコットがバトルアックスをミナトに向けて薙いだ。
ミナトの瞳が鋭く光る。
「《
剣が乱れ咲くように、スコットの鎧が連続で切り裂かれる。無数の剣が高速で舞い、鎧はズタズタになってゆく。さらに、スコットの肉体までが傷ついていった。鎧の割れ目からは血が噴き出す。
魔法《ダイ・ハード》で鎧も肉体も硬くなって強化されているのに、ミナトの剣の威力はそれを上回り、目にも止まらぬ速さで連撃する。
スコットは、もう自身の敗北がわかった。
――もう、終わりか。オレの《ダイ・ハード》は、破られてしまったのか。いつ以来だ? オレが破壊されるのは……。
あまりに猛烈なミナトの攻撃に、観客たちは息を呑む。スコットを応援しようとしていたファンも、口を開きかけたまま固まっていた。
どんな戦術でサポートしようかと思っていたカーメロでさえ、手が止まってしまった。カーメロはスコットを助けられないと諦める。
――スコットさん、あなたは負けたのか……。あの《ダイ・ハード》が、破壊されてしまうのか……!
蓄積されたダメージは《ダイ・ハード》の限界を超え、鎧に入った切り傷は大きな亀裂となり、スコットの身体と鎧を覆う魔力反応は弱まっていく。サツキの《緋色ノ魔眼》はそれらも見届ける。
当然ながら、カーメロが投げたナイフもサツキは完璧に処理する。動体視力の上がった緋色の瞳でナイフを寸分の狂いもなく観測して、右手で握って止める。カーメロが《スタンド・バイ・ミー》を発動しようにも、サツキの《
数えるのも気が遠くなるほどの傷が数え切れない速さで作られ、スコットの鎧は砕け散り、肉体を覆うものはなくなる。露わになった上半身は、見るのも痛いほど傷だらけとなっていた。《ダイ・ハード》は物に硬化を付与するより術者・スコット自身を硬化する力のほうが強いらしい。身体から手足が離れることはない。しかし、それは相手を殺さぬための調整であるのかもしれなかった。
スコットは、ミナトにどれほどの時間斬りつけてられていたのか、すでにわからない。最初の一太刀からたったの数秒なのか、それとも何十秒と経っているか。実際は十秒ほどなのだが、スコットにはとても長く感じられた。
が。
やがてその時も終わる。
スコットが抵抗もできなくなるほどダメージを受けたとみるや、ミナトは最後の一刀を放つべく構える。
「天晴れでした」
最後にミナトがトドメを刺すとき、クロノが叫んだ。
「鞘走る! なんという連撃だあああああああああ! あのスコット選手が、無敵の鎧をズタズタに引き裂かれ、砕かれ、最強の『破壊神』が破壊されてしまったー! ミナト選手の神速の連撃《
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