88 『パスグローブ』

「サツキ選手とミナト選手は作戦会議が終わり……!? おーっと! ミナト選手がサツキ選手のグローブをしています! サツキ選手の壊された左腕は場外へ! そして、その左手にしていたグローブは、ミナト選手の左手に装着されました! このグローブは魔法道具としており、ロメオ選手の魔法を打ち消す能力と同じ効果を持つもので、その名も《打ち消す手套マジックグローブ》! この《打ち消す手套マジックグローブ》がミナト選手に! これはいったいどういうことでしょうか!」


 クロノがそう言うと、カーメロが口を開いた。


「なるほど。そういうことか」

「はい。僕がこの《打ち消す手套マジックグローブ》を左手にした状態で刀を握れば、刀にかかる魔法効果を無効化できる。つまり、刀が魔法効果を受けることはなくなるというわけです」


 スコットもそれをすぐに理解していて、その対策にも考えを巡らせる。


「オレはヤツの刀を《ダイ・ハード》で硬くして破壊することができなくなった。だがしかし、刀そのものが守られるだけのことであり、オレが《ダイ・ハード》を使えることに変わりはない。もっと言えば、直接その刀による攻撃を受けようと、オレの鎧と肉体は《ダイ・ハード》で強化されたまま! 《ダイ・ハード》を打ち破るほどのパワーがない限り、ヤツはオレに勝てない!」


 言い切ったスコットの言葉を、クロノが言い換える。


「そういうことみたいだー! つまーり! ミナト選手はその剣の腕だけで、《ダイ・ハード》の硬い鎧と勝負できるのだ! 《ダイ・ハード》を突破できる攻撃ができれば、スコット選手にも勝てる! 反対に、鋼鉄よりもダイヤモンドよりも頑丈な《ダイ・ハード》を斬らない限り、スコット選手に勝つことはできないということだ! まさに、パワー勝負だー!」


 わかりやすい勝負になったことで、見ていた観客たちもパワーのぶつかり合いに期待して盛り上がっていた。「ミナトならやるんじゃないか」という声や、「スコットの《ダイ・ハード》には敵わないだろ。だが、気になるな」といった声も聞こえてくる。


「当然、サツキ選手も片腕になりながらも常に隙をうかがっている! サツキ選手に硬化を解かれたら、また鎧と肉体が傷つくこと必定! しかしカーメロ選手も離れた場所からサツキ選手とミナト選手を狙う! 百獣の王を取り囲むかのような狩りの構図といったところだろうか!」


 サツキはややクロノの声も聞こえづらくなってきていた。出血量も多く、少しずつ意識が薄くなっている。


 ――《ダイ・ハード》を受けたとき、いかに素早く《打ち消す手套マジックグローブ》で解除するかを考えていたが、今となっては後の祭り。ここまできたら、相手の王将・スコットさんを詰ませるだけだ。そして、残すカーメロさんを仕留める。もってくれよ、俺の体力。


 それでも視界はまだちゃんと開けている。


「頼むぞ、ミナト」

「任せてよ」


 ミナトがスコットに剣先を向け、宣言する。


「あなたの無敵の鎧を、僕が斬り伏せてみせます!」

「オレが最強だ! だからおまえにはできねえよ、オレがすべてを破壊するからな!」


 売り言葉に買い言葉で、スコットも臨戦態勢に入った。


「では、尋常に」


 突風が吹くようにミナトが飛び出して、スコットに斬りかかる。

 それにやや遅れてサツキもスコットに攻めかかった。だが、今度はサツキも刀を握っている。


「サツキ選手、さっきまでとは一転、刀を使っての戦術に切り替えた! ミナト選手と共に、二本の刀がスコット選手を狙います! しかし、カーメロ選手のナイフも襲う! と、これを、サツキ選手が弾いた! どこに目がついているんだー!? 後ろまでまるっと見えているのか! すごいぞ、サツキ選手! サポート役がスイッチして、ミナト選手の刀が鋭くスコット選手の鎧を斬りつけていくー!」


 カーメロがナイフを左手に持ち、また投げるタイミングを計りながら、


「思ったよりやるじゃないか、しろさつき。だが、スコットさんは『神速の剣』でも簡単には壊せないぜ。その前に、ボクがまず、キミを始末してやるよ」


 と、ナイフを投げた。

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