63 『デストロイヤー』

 トライデントを折られたアポリナーレは、もうなすすべなく倒されてしまった。

 スコットが巨大な斧・バトルアックスを振るうことで、アポリナーレの足が切りつけられる。しかし、足は切り落とされたのではなく、硬化してしまったのである。

 硬化した足にバトルアックスを振り落とすことで、再生不可能なほどに足が砕けてしまった。


「足がぁっ!」

「降参をすすめよう。さあ、どうする」

「この我が輩の足が、痛みもなく砕け散っただとぉ!? 割れた皿のように散らばっているぞ! こいつはどうやったら治せるというのだ! いや、不可能! 無理に近いんじゃないか!? これでは、もうコロッセオで戦うどころか、歩くことさえ……」


 バラバラに砕けた自分の足を見て、アポリナーレは平静を失っていた。

 だから、スコットが声をかけてもアポリナーレはそれに答えられなかった。


「アポリナーレ選手、足が砕かれてしまったー! 恐るべし《ダイ・ハード》! 容赦なしだ、《ダイ・ハード》! スコット選手はここで降参をすすめました! しかし、アポリナーレ選手はそれどころじゃないみたいだ! 頭が混乱しているのかー?」


 クロノが実況する声すらアポリナーレにはもう聞こえていないようだった。

 武器も失い、歩くことさえできなくなったアポリナーレ。その光景は凄惨というよりも哀れに見え、それ以上に恐ろしく非現実的であった。


「話にならん、か。では、終わりだ」


 そして、アポリナーレはスコットの攻撃で吹き飛ばされた。

 バトルアックスの刃が身体に直撃した。それなのにまた切り傷ができなかったのだが、今度は身体が砕けることもなかった。サツキの観察によると、これはインパクトの瞬間にスコットがバトルアックスを通して《ダイ・ハード》を相手の身体に付与し、硬化させることで身体を真っ二つにするのを防いだのである。結果、まるでゴルフボールがドライバーで打たれたように、アポリナーレは場外へと飛んだのだった。

 相手を殺したら失格のルール上、殺さずに場外にするのがもっとも確実だから、これは最適解の一つだ。


「決まったー! クオーターファイナル第一試合、勝ったのはスコット選手&カーメロ選手! ポセイドンのトライデントは、スコット選手の鋼鉄の鎧には届かなかったー! 昨年優勝バディーが、今年もベスト4に進出だ! みなさん、素晴らしい戦いを繰り広げた両者に拍手を!」


 クコも言われた通り素直に拍手しながら、


「すごかったです。あの二人に勝たないといけないんですね」


 と少し緊張した面持ちになる。


「あの足、治せるでしょうか?」

「砕けてしまったので、修復は難しそうです。それに、医療の範囲ではないようにも思います」


 心配するクコとリラに、シンジが言った。


「完全に治すには、レオーネさんみたいに特別な魔法の使い手に頼るしかないよ。でも、医療班は優秀だから、歩くようになるくらいは治ると思う。前にああやって手足を粉々にされた選手がいてさ、その人、数週間後には今まで通りに出場していたんだ」

「それも、医療班なのかな?」


 アシュリーが聞くと、シンジは自分でもわかっていないのか曖昧に答える。


「おそらく、違うね。レオーネさんとかのすごい魔法の使い手の名前も出なかったんだけど、噂では闇医者が治したって話だよ。お金さえ払えばあらゆる傷を治せるんだってさ」

「へえ、そんな人がいるんだ。あ、噂だから本当にいるかはわからないんだったね。でも、治るといいな、アポリナーレさん」

「そうですね。いくら覚悟を持って参加していたとしても、歩けなくなるなんてあんまりです」


 と、アシュリーとクコが話している。


「気になるかもしれないけれど、まずは次の試合よ。サツキ、ミナト。準備はいいかしら」


 ルカがそう言って、アシュリーが時計を見る。


「そろそろ時間だったね、サツキくん」

「うむ。準備もできている」


 立ち上がったサツキ。


「次の試合は十時半からです! それまで今しばらくお待ちください!」


 よーし、とミナトもゆるっと席を立とうとしたところへ、スタッフのお姉さんがやってきた。


「サツキさん、ミナトさん。次の試合の時間が近づいてまいりました。準備をお願いします」

「はい」


 二人の出発に、クコたちみんなが応援して送り出してくれた。

 だが、歩き出してすぐ、スタッフのお姉さんは振り返ることなく、二人に告げた。


「次の試合、準備はしていただくのですが、少々困ったことがあります」

「困ったこと?」


 ミナトが首をかしげた。

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