61 『フリクエンシーストラクチャー』

「とうとうアポリナーレ選手とスコット選手がぶつかるーッ! どうなるんだー!?」


 クロノの声を聞いて、サツキは考えた結論を述べた。相手は秘密組織『ASTRAアストラ』の情報担当である『ISコンビ』、ラファエルとリディオだ。


「《海ノ王ネプチューン》は、試合中にいくつかのことをしてみせた。地震を起こすこと、風を吹かせること、自分の傷を癒やすこと。そして、カーメロさんが違和感を覚えるダメージを与えたこと。あのとき、俺の《いろがん》は揺らぎを見た」

「なるほど」


 ラファエルは、答えを知っているだけに、サツキがどんな分析結果を出すのか、またその過程が気になった。


「さらに、このあとの行動で確信できる」

「スコットさんに攻撃することですか?」


 クコが尋ねると、サツキはうなずいた。


「うむ。なぜなら、スコットさんの魔法《ダイ・ハード》は物や身体を硬化させる。本来ならば、硬化したスコットさんにダメージは入らない。それどころか、返り討ちにされる」

「わかっているはずなのに突っ込むのは、勝算があるからですね」


 と、チナミが言った。


「そう。そしてその勝算とは、《海ノ王ネプチューン》の特別な力、振動にある」


 サツキが言い切ったとき、アポリナーレはトライデントでスコットを突き刺した。三つ叉の槍がスコットの脇腹にぶつかる。

 しかし、スコットの魔法《ダイ・ハード》が、硬化によって彼の身体を傷つけることを許さない。


「やあああッ!」


 アポリナーレは力を込めた。

 すかさずクロノの実況が挟まる。


「トライデントがスコット選手に直撃ーッ! しかーし! トライデントはスコット選手を貫くことはできなーァい! 《ダイ・ハード》の守りはまさに鉄壁! 力のままに押していくアポリナーレ選手だが、びくともしない!」


 だが、アポリナーレはまだ魔法を使っていない。ここからが彼の力の見せ所だ。


「簡単にはいかないか! だが、これならどうだ! 《海ノ王ネプチューン》!」


 魔法が発動。

 サツキの言った振動が加わる。

 これを、サツキはクコたちにもわかるように説明した。


「地面の揺れは、そのまま地面を振動させたことによって起こった。強風を吹かせたのも、空気を振動させたからだ。また、カーメロさんがしびれを伴ったのも、振動のせいだと思われる」

「振動を身体に受けると、どうなるのですか?」


 リラが質問する。


「人間は、人それぞれが固有の周波数を持っている。それぞれが違った周波数で震動しているんだ。これをトライデントの振動で乱すことで、身体に異変をきたしたりするのが、アポリナーレさんの使い方だと考えた。ただ、治癒までできるのは予想の範疇を超えているが」

「ご名答です。よく辿り着きましたね、サツキさん。周波数についてはただの観客たちやクロノさんも知らない情報になります。アポリナーレさんの理論ではどうも治癒さえできてしまうようです」


 ラファエルは内心で驚くが、反面サツキならそんなおかしな科学の知識があってここまで導き出せてもおかしくないとも思った。


「つまり、いくら《ダイ・ハード》で硬化しても、周波数を乱せば、あるいは……」


 と、リラはアポリナーレの狙いを察した。


「うむ。硬化が破られて、スコットさんを突き崩せると考えたのだろう。果たして、どうなるのか」


 力で伏せるつもりのアポリナーレに見えたが、本当の狙いは周波数を乱すことだった。

 それは、サツキの読み通り。

 一方、スコットは彼を『破壊神』たらしめるその魔法《ダイ・ハード》の力をここから発揮してゆく。


「《ダイ・ハード》は、オレを強くするためだけの魔法じゃない! オレを最強にするために、敵を脆くするための魔法でもあるのだ!」

「な、なにを言っているッ」


 アポリナーレが表情を歪ませたとき、サツキの《緋色ノ魔眼》は見た。スコットの硬質な魔力が、アポリナーレのトライデントを包み、硬化させてゆくのを。


 ――そういうことか!


 サツキはスコットの魔法《ダイ・ハード》の本当の狙いに気づいたのだった。

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