30 『エクスチェンジ』
サツキは目をこらす。
バージニーがどうやってトランプを使ってくるのか。
気になっていたその答えは、案外特殊なものではなかった。
緋色の瞳に向かって伸びてきたトランプは空を切った。指で挟んだトランプが手から離れることはなく、ナイフのようにして攻撃してきたのだ。
――目潰し! それが狙いだったか! でも、なぜだ……?
サツキは違和感を覚える。
トランプは魔力をまとっていない。平凡なトランプでしかない。それが引っかかる。
――切りつける攻撃はなにもおかしなものではない。でも、引っかかる。なにかが足りない気がする。
バージニーはサツキを称賛してくれる。
「すごい! これを初見を避けられるってなかなかだよ!」
「少しは驚きましたけど、このくらいなら余裕です」
と、サツキはクールに言ってのけた。手にトランプを仕込んでいたのもわかっていたし、サツキの動体視力があればなんてことはない。
「へえ~。さすが」
「……」
会話しながらも、サツキはなにか言葉にできないこの小さな違和感について考えていた。
トランプでの攻撃は、切りつけてくることでしかなかった。そのことが引っかかるのだ。
狙いは目潰し。
しかし、バージニーが《ダメージチップ》で痛みや傷をチップ化して預かるこの戦いでは、有効とも思えない。傷がつかないということはすなわち、視界が奪われることはないということでもある。
――仮に目潰しをされても、この試合中目が見えなくなることはない。なのに、あえて目潰しを狙う理由……わかったぞ! それは、ダメージが大きい攻撃だからだ! シンプルだが、それだ。そういうことなのだ。
人体における器官としても、器官の損傷率としても、ダメージが小さいはずがない。
――腕にすり傷をつけるよりも、目を潰されるほうが、大きなダメージ判定がなされると思われる。人間が情報を得る際、その大部分を視覚から得るように、目は人体にとってもっとも重要な器官の一つ。それを潰されるのだ。
ダメージは軽く見積もっても50点以上になるだろうか。もし人によってもダメージ判定が変わる場合、目に頼った生き方をするサツキの受けるダメージはもっと大きいかもしれない。
しかも、バージニーはトランプの扱いがうまく、思った以上に手元で伸びる。サツキほどの目がなければ、あるいは相当な反射神経や運動能力がなければ、確実に目をひっかいていたことだろう。
追い打ちもサツキは視認し、紙一重にかわした。
互いに距離を取って見合う形になり、クロノの実況が入る。
「さすがに目がいいぞ、サツキ選手! バージニー選手のトランプは、華麗な足技が連続する中に仕込まれたナイフのようなものだが、サツキ選手には通じなかったー! だが、まだ一度見切っただけ! まだまだバージニー選手のトランプはサツキ選手を狙っているぞ、気をつけてくれ!」
クロノに言われずとも、サツキはトランプから注意を離すつもりはない。
――もしかしたら、トランプを飛ばしてくるかもしれない。それも気をつけないと。
ただ、「しかし」とも思う。
――《ダメージチップ》もすごいしトランプもまだおもしろいが、やはり強いと言われているだけあって足技はかなりのものだ。
サツキも攻め切れずにいる。
――幸い、バージニーさんはパワーがすごいタイプじゃない。スピードは俺と同じくらいだが、パワーは最大値なら俺のほうがずっと上。今は最大威力の一撃をお見舞いするために、力を溜める時だ。魔力を練り込み、そこに《
「さあ! サツキ選手のチップとバージニー選手のチップはそれぞれどのような感じなのでしょうか! ワタシにはわからないのが、彼女の試合のもどかしいところであり、おもしろいところです! ダメージが表面に現れない分、察することは難しいが、共になかなかダメージは蓄積されてきたんじゃないかー!?」
気に掛かる《ダメージチップ》も、クロノの声を聞いて、サツキは改めて意識した。
――パワーは受けた瞬間の衝撃で辛うじて判断していたが、どの程度のダメージを受けているのかは未知数だ。考えてみればそうだった。同じポイントを一度殴られただけの状態より、三度殴られたら、肉体に蓄積された損傷によって三度目が一番大きなダメージになる。でも、この人の魔法を受けている間、ダメージは後払いだからそこにも気づけない。あるいは、俺より彼女のほうがパワーが上という可能性もあるということか。
つまり、本当にどれだけのダメージを受けているのかは、感覚じゃあわからないのだ。
慎重さが足りなかった、とサツキが思ったときには遅い。
バージニーはさっと下がって、チップを指先で弾いた。
「換金するよ。ミナトくんに、85点!」
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