35 『ダメージキル』

 すでに受けていた250点に240点が加算され、490点となった。

 一人の人間が蓄積できるダメージは500点までで、それを超えると気絶してしまうから、ミナトの体力は残り10点となってしまった。

 ミナトは苦い笑いを浮かべた。


「いやあ、体力ギリギリって感じがするなァ」

「大丈夫か」


 サツキが聞くと、ミナトはおかしそうに笑いを返した。


「どうもマズいようだ。さっさと倒してしまわないと、すぐやられてしまう」

「そうか」


 そうだよな、とサツキは思い直す。


 ――バージニーさんの《ダメージチップ》は、肉体が切れて出血したりすることはない。打撲のようなアザもできなければ、骨が折れることもない。チップ化されて預かってもらっていたダメージが換金されると、ただ体力が尽きるように体力の消耗が起こるだけだ。


 その後、ダメージが上限の500点分を受けると気絶してしまうのである。しかも、丸一日目を覚まさない。


 ――もしミナトが500点を受けて気絶したら、俺は試してみたいことがある。それは、グローブによる魔法の打ち消しだ。


 サツキは魔法の効果を打ち消すグローブ、《打ち消す手套マジックグローブ》を持っている。これで触れれば魔法効果を消し去ることができるのだ。


 ――魔法の力によって気を失うだけなのだから、ミナトを再生することも可能だと俺は考える。しかし、それが成功するかはわからない。俺の読み通り再生できたらラッキー、そしてグローブへの信頼が高まり今後の戦略の幅も増えるが、それだけだ。逆に、グローブで打ち消せなかったら……その時は、俺はこの先ひとりで戦っていくことになる。


 試合を見ていたヒヨクが小さく微笑しながら言った。


「厳しくなってきたね」

「だね~」

「10点を取られたら、サツキくんの『ゴールデンバディーズ杯』は終わりなんだから」

「そうなの~?」

「もしここで、サツキくんが一人でバージニーさんとマドレーヌさんを倒してトーナメントを勝ち進んでも、次の試合になってもミナトくんは気絶したままで戦えない。丸一日は起きないってことだからね。この時点で、サツキくんの『ゴールデンバディーズ杯』は終わりだ」

「まあ、次の試合くらい一人でも勝てると思うけどね~」

「……確かに、明日の初戦、前回ベスト4のあのバディーくらい、サツキくんなら一人でもなんとか倒せるかもしれないか」


 だが、サツキ本人は明日の試合の相手のことなど知らない。ベスト4という触れ込み付きの相手に、一人で勝てるとは思っていなかった。

 そうなると、サツキの出すべき答えは決まっていた。


 ――相手の魔法も見終えた。分析のトレーニングもできたし、あとはミナトの好きにやらせたほうがいいだろう。


 サツキは言った。


「ミナト。もういいぞ」

「ああ、そうかい」


 気が済んだかい、とでも言うような調子である。

 バージニーは目を丸くして聞いた。


「え、サツキくーん。こんなピンチなのに、なにがもういいの? 諦めちゃった?」

「無理もないよ。500点……致死点ギリギリを彷徨っているんだもん。気絶したら丸一日は起きないって聞けば、諦めもつくでしょ。そして、おじけづくでしょ」


 マドレーヌは勝ちを確信したように言った。

 しかし、バージニーはサツキとミナトの目を見て、マドレーヌに反問する。


「でも、本当にそうなのかな? この子たち、そんな目してる?」

「ああ~……してねえな」


 と、マドレーヌはサツキとミナトを見て小さく笑った。


「最初のアレがなにかの間違いじゃなければ、アタシたちじゃ勝てないし」

「てか、コロッセオどころかほとんどの人間が勝てないしね。だからワタシは、アレはなにかの間違いだって思ってたんだけど……」

「……うん。でも、縛りってのもあるかもだし、高をくくってここまでやってきたんだけど、もう残された時間はないみたいね。とにかく、最後までやってみようか」

「だね」

「ん」


 マドレーヌとバージニーが方針を固めたところで、サツキは閃いた。思いついたことがあるのだ。


 ――そうか。《打ち消す手套マジックグローブ》を試す方法ならほかにもあった。なぜ気づかなかった。そうだ、勝っても試せる。


 そこで、サツキは作戦をミナトに伝えた。


「ミナト。やってほしいことがある」

「ほう。なんだい?」

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