24 『チップバリュー』

 突然のバージニーによる魔法開示の提案。

 魔法が個人情報として高い価値を持つこの世界で、そうしたことを言われるのは非常にめずらしいケースだった。


「そこまでサービスしなくていいと思うけど」


 マドレーヌは剣にかけていた手を離してバージニーに言うが、意見を押し通すつもりはないようで、


「いいじゃない。どう攻略してくれるのか、興味あるのよね」


 とバージニーが言うと、大した不満もなさそうに小さなため息をつく。


「ま、それでこっちが不利になることもないし、それで攻略されるもんでもないし、あんたがしたいならそれでもいいけどさ」

「ありがとうマドレーヌちゃん」


 嬉々とお礼を言って、バージニーはサツキとミナトに向き直った。


「そういうことだから、大サービスっ! アタシの魔法、《ダメージチップ》について教えてあげるね!」


 魔法の情報価値は、コロッセオで大勢の人間に知られている場合など、気にしないこともあるだろう。調べようと思えばいくらでも調べられるからだ。しかし、知らない相手にわざわざ教えるメリットはない。

 バージニーの場合もそうだが、彼女はただサツキを気に入り、サツキがどう攻略しようとするのかを見たいだけだった。

 これを受けて、サツキとミナトより先にクロノが反応した。


「なんという大サービスでしょう! 魔法を使うとの宣言に、《ダメージチップ》の説明までしてくれるようです! これはサツキ選手とミナト選手、聞いておかない手はないぞー!」


 サツキとミナトは顔を見合わせ、うなずき合った。


「お願いします」


 うん、とバージニーはウインクした。


「まずね~、アタシの魔法は《ダメージチップ》。チップでダメージをコントロールするものよ。受けたダメージがそのままチップ化されるの。チップはチームで共有することになるんだけど、同じチームの味方同士ならダメージの受け渡しが可能。ダメージチップは攻撃を受けるたびに蓄積されて、500点のダメージで一人分の体力が尽きて気絶してしまう。チップには1点、5点、10点、25点、100点、500点があって、これで計算していくわ。この点数をチップバリューっていうの」


 バージニーはそう言って、自分の手の甲を爪で軽くひっかくと、手の中に『1』と数字の書かれたチップが現れる。


「ダメージを受けると、こういうチップが現れるわ。この魔法の効果を受けた人は、魔法を発現している間、剣で斬っても血が出ないし殴られてもアザもできない。首を斬り落としても死なない。首を斬り落とすと500点のチップバリューになるね。即死するほどの高得点ってだけだから、魔法を解除しても首には傷一つつかないの。また、味方同士はダメージを与え合うこともない。アタシとマドレーヌちゃんが殴り合ってもノーダメージ。ただし、さっき爪でひっかいたみたいに、ディーラーのアタシ自身は自傷ダメージを受けてしまうわ。どう? アタシの《ダメージチップ》はお互いに怪我をしない安全な魔法だって理解してもらえた?」

「へえ。素敵だなァ」


 と、ミナトが楽しそうに言った。

 しかし、サツキは疑問も覚える。


 ――なぜ、自分だけ自分へのダメージが与えられるんだ? 無意味な機能だと思うけど……。より強い効果を魔法に持たせるには、より厳しい縛りが必要になる。これだけ複数の他者に影響を与える効果範囲を持つ分、自分へのデメリットも必要なのだろうか。それとも、デメリットではない……?


 考えていたサツキだが、どのみち今のままでは情報が足りない。別のことに頭を回したほうが得策だ。

 バージニーがサツキに言った。


「質問があれば、ちょっとくらいなら答えてあげるよ」

「ダメージの受け渡しって、俺たちが自分ですることもできるんですか?」


 この問いには、バージニーはにこりと笑って、マドレーヌが答えた。


「コントロールできるのはバージニーだけ。つまり、迂闊に片方だけダメージを受けたら、もう一人にダメージを流して戦闘不能にすることもできるってわけ。ついでに言えば、チップの移動によって500点を受けても即気絶する。丸一日起きられない。そして当然、チップはバージニーの意思でいつでもダメージそのものに変換可能よ」

「チップを実際にダメージに変換するのを、アタシは換金って呼んでるわ。チップ化しなれば普通にダメージは受けるし、そのほうがいいこともあるんだけど、ダブルバトルだとコントロールしたほうが有利なこともあるの。わかるかな?」

「……」


 かなり厄介だ、とサツキは思った。マドレーヌが言ったように、倒したいほうだけにダメージを移して倒してしまうこともできるのだから、二人のダメージ総量が500点を超えないようにして戦わなければならないのだ。

 そうしたポイントには、観客席で見ていたチナミもすぐに気づいた。

 だからナズナが、


「強い魔法なのかな?」


 と疑問を浮かべたときにも、サツキとミナトなら大丈夫だとは言い切れなかった。

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