20 『ダークホース』

 午後。

 一時半を過ぎた。

 二回戦の四つ目の試合が開始された頃、サツキとミナトがまたスタッフのお姉さんに呼ばれる。


「サツキさん、ミナトさん。試合が近づいてまいりましたので、準備をお願いします」

「はい」

「了解です」




 二回戦、サツキとミナトが舞台に上がっていくと、一回戦のときよりも大きな歓声が上がっていた。


「お。出たぞ、ダークホース!」

「なんてったっけ? サツキとミナトだったか?」

「そうそう。見た感じあんま強そうじゃないんだが、あのカルロスと殴り合って平気だったしな」

「それより、あの超速い剣だよ! あの剣士がすげーんだ!」

「ぼーっとしてんなよ! 応援してんだからなー!」

「頑張れよー!」


 一階席では。

 賑やかな声に、ナズナがびっくりしている。


「すごい……応援が、たくさんだね」

「それはそうだよ。一回戦でサツキ様とミナトさんの強さが知られたから、期待する声が多くなってるんだと思う」

「だね。例のヒヨクさんとツキヒさん以外だと、こんなに声援もらえるのは人気のあるバディー何組かしかいない感じだね」


 と、リラとチナミが言った。

『司会者』クロノが対戦相手の選手たちの説明をしている間、シンジもその選手たちのことをクコやアシュリーに話していた。


「……ていう感じだから、これまでの戦績とか考えても、危なげなく勝てるんじゃないかな」

「あんまり手応えがないより、サツキ様の修業にもなってくれるといいですね」

「でも、勝てるに越したことないよ」


 みんなが話しているのを横で聞きつつ、ヒナは耳をピンと立てる。


「ふーん」


 うさぎの耳が向いたのは、ヒヨクとツキヒがいる方向だった。

 二人の会話が気になったのだ。

 ツキヒはヒヨクの膝枕で眠っていたのだが、ヒヨクに「次、サツキくんとミナトくんだよ」と言われると、もぞもぞと起き出して、「もうそんな時間?」と舞台に目を向けた。


「ただし、サツキくんとミナトくん、ここでも実力を出すまでもなさそうだ」

「見るまでもなさそうだね~」

「うん。でも、ボクたちの試合まではまだ時間があるし、見るだけ見ておこうよ。ツキヒ」

「え~。眠い」


 そう言って、ツキヒはまたパタンとヒヨクの膝に頭を預けて眠ってしまった。

 ヒナは今の会話を聞いて、腕を組む。


 ――たいした余裕じゃない、あいつら。向こうもサツキとミナトのことは意識してるみたいだけど、なんかゆとりありすぎて気に入らないわね。


 それから声をあげる。


「サツキー! ミナトー! 寝てるようなやつの目が覚めるような試合してやりなさーい!」

「ま。それも相手次第だけどね」


 と、ルカがぽつりとつぶやく。


「いいのよ、サツキとミナトがすごければ相手が弱くても気になるってもんでしょ」

「さあ、キミたち。試合が始まるよ」


 ブリュノがそう言うと、クロノが試合開始の合図を出した。


「レディ、ファイト!」


 試合は、最初こそサツキとミナトがじっと相手の魔法を見極めるための時間になったが、長く続くものではなかった。


「どうだい? サツキ」

「うむ。もういいぞ」

「了解」


 サツキの許可を受けたミナトが相手を斬り、あっという間に終わってしまった。

 試合は余裕を持って勝てたのである。

 これに文句を言っているのはヒナくらいのもので、


「もっとすごい勝ち方しろー!」


 と言ってるばかりであり、ほかの観客たちは楽しそうだった。


「すげー! すげーぞ、あの神速!」

「超はえー!」

「もう片方はほとんどなにもしなかったな」

「でも、魔法を受けたけど平気な顔してたぜ? それだけではあるが」


 と、サツキはあんまり目立たなかった。

 舞台を下りて、ミナトがささやく。


「初戦のほうがまだおもしろかったね」

「ここからだろう。面倒そうなのは」

「面倒?」

「分析に、骨の折れる相手が出てくるってことだ」

「そっかァ。それは楽しみだね」

「フ。それもそう、かもな」


 各ブロックの二回戦は当然ながら一回戦よりも試合数が少ないため、いいペースで回り、三回戦となった。

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