12 『インスピレーション』

 ほかの観客たちが賑やかに盛り上がっている中、ルカは「私の魔法と似てる」と感じていた。

 たからは、《ねんそう》によって所有権を持つ物体をテレキネシスのように思った通り動かせる。

 さらに、もう一つの魔法《お取り寄せ》で、別の空間から所有権を持つ物体を取り寄せることができる。これを取り出すポイントは自由に設定でき、人や物体とかぶらないことが条件となる。つまり、相手の心臓の位置に剣を取り寄せて刺し殺すといったことはできないのだ。

 空間をつなぐ魔法。

 それができる者同士、ルカはデイルの魔法を真剣に見ていた。よく見て、考えていた。


「どうしました? ルカさん」


 リラが尋ねると、ルカはこう答えた。


「来てよかったわ」

「ん?」


 とリラは首をひねる。

 もう、ルカは解析を終えていた。

 完璧にわかったわけではない。

 ただ、自分が学び、自分の魔法に活かせる方法を思いついたのだ。


「レオーネさんに潜在能力の解放をしてもらって、強くなっていることは実感もできていた。でも、私は新しい魔法も新しい技も得ていない」

「それはリラもです」

「あなたは創造力によって成せることが大いに増えたわ」


 リラには、絵に描いたものを実体化する魔法《真実ノ絵リアルアーツ》がある。絵を描く技術が上がったことで、リラは創造力を働かせて前以上にいろんな絵を描けるようにもなっている。


「みんなもできることが増えている。それに引き換え、私にはなにもできることが増えてない。《ねんそう》のコントロールが上がったくらい。ただ、この試合を見て閃いたわ」

「つまり……」

「ええ。新しい技の構想がね」

「やりましたね、ルカさん」


 喜んでくれるリラにルカが小さく微笑を返して、クコはあえてなにも言わずに横目でそれを聞いていた。


 ――新技、期待していますね、ルカさん。いっしょに、強くなっていきたいですから。


 同じ司令隊として、クコはルカと共に強くなりたいと思っていた。

 応援したい気持ちもあるが、新しい魔法を生み出すのはルカの創造力なのだ。

 クコはルカのこの一歩を嬉しく思った。


「そういうことか! オレも試合を見てれば、なんか閃くかもしれねえな!」


 と、バンジョーが膝を叩いた。


「あんたは《魔力菓子》をやっと覚えたところでしょ? ほかに新しい魔法を使えるようになるのはちょっと早い気がするんだけど」


 ヒナに指摘されるが、バンジョーは陽気に笑い飛ばした。


「なっはっは! たったの数日で《魔力菓子》を覚えたオレだぜ? 閃いたあとにまた数日もあれば、余裕ってもんよ!」

「今度は先生が教えてくれるわけじゃないってのに、どこからその自信が湧いてくるのよ」


 ヒナは呆れているが、バンジョーは「任せとけよ」と親指を立てた。


「ていうか、会場が騒がしいわね。あっち? ん? なんか、身を乗り出して応援してるヤバイのがいるし……って! あいつら、アキとエミじゃないの!」

「遅れるとは言ってましたが、二階席に行ってたんですね!」


 驚くヒナにつられてみんなも二階席に目を向ける。クコはもう立ち上がっていた。


「ちょっと呼びに行ってきます!」

「いいわよ、あんなのといっしょに応援なんてうるさすぎるでしょ」


 厄介者を見るようなヒナにも、クコはにこりと笑顔で言う。


「みんなでいっしょに応援したほうが、声が届くと思うんです!」


 それだけ残して、さっそくクコは駆け出していた。


「で……あんたは呼びに行かなくていいの? 昔からの友だちでしょ」


 ヒナにそう言われたのは、ルカである。


「そんなことは関係ないと思うけど。あっちはクコに任せて、私はこの試合をじっくり観察させてもらうわ」

「あっそ」


 頭の後ろで手を組むヒナ。

 試合を観察すると言ったルカは、それでも気持ちとしてはただ冷静なだけではなかった。

 サツキとミナトならきっと勝つ。だからといって、観察に専念させてもらうつもりじゃない。


 ――気をつけて、サツキ。空間に干渉する能力は、ハマったら厄介よ。少しでも対応が遅れると、手がつけられなくなる。相方の魔法次第では、あなたの目をもってしても、後手後手になることだってあり得るわ。頑張って……!

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