87 『スペシャルルール』
ダブルバトル部門第九試合が始まろうとしていた。
すでに舞台に登場した二人の選手を『司会者』クロノが紹介する。
「デメトリオ選手二十七歳、マッシモ選手二十歳。二人はこれまでに五十勝十七敗という記録を残し、バトルマスター・レオーネ選手とロメオ選手に挑戦しました。が、敗北したことで勝利数もリセットされてしまった。それでも二人が歩んできた五十勝の道のりがなくなったわけではありません。それは確かな力となり、またこの場に出てきてくれました」
この円形闘技場コロッセオでは、勝利数が五十になると、バトルマスターに挑戦する権利を得られる。
勝てば新たなバトルマスターとなり、負ければこれまでの対戦成績がリセットされてしまう。
デメトリオとマッシモは対戦成績がリセットされた状態であり、現在は0勝0敗。
またバトルマスターに挑戦するには、文字通りゼロからのスタートとなるのだ。
「二人は、『ゴールデンバディーズ杯』への出場も狙っているそうです。ただし、このままでは勝利数が三勝に満たず、出場できません。しかし、五十勝を達成した実績とバトルマスターに挑戦したことがあるという実績から、一度でも勝利すれば参加できる特別ルールが適用されます」
これによって、この試合に勝てばデメトリオとマッシモは『ゴールデンバディーズ杯』に出場可能となる。
「ぜひとも出場したいですね、マッシモ」
「そうっすね! 『ゴールデンバディーズ杯』に出て、そこで優勝すれば、またバトルマスターと戦えますからね!」
「こんなに早くリベンジの機会が与えられたことに感謝しなければいけません。今度こそ、レオーネさんとロメオさんから、最強の座を奪いに行きますよ」
「はいっす!」
デメトリオはメガネをかけた細身のスーツ姿で、年下の相方・マッシモにも敬語でしゃべる。
背の高いデメトリオに対して、マッシモは背は低めでどちらかというと肉づきもよく顔も丸みがある。背中に剣を装備した騎士服である。
でこぼこコンビの会話を受けて、クロノが叫んだ。
「二人共バトルマスターにリベンジ宣言だー! だが、リベンジするには『ゴールデンバディーズ杯』に出場する必要があります! 対戦相手も簡単に勝たせてくれるかはわからないぞ! おーっと、やってきました! デメトリオ選手とマッシモ選手の対戦相手が、舞台に上がってきた!」
サツキとミナトが舞台にやってくる。
舞台に上がると、クロノがさっそく二人の紹介に入る。
「昨日、一昨日と三日続けて大トリを務めるのはこの二人! 『波動のニュースター』
二人に送られる声援は、デメトリオとマッシモにも遜色ないほどのものだった。それだけの人たちがサツキとミナトにも期待しているということだ。
サツキとミナトの登場に、デメトリオが話しかけてきた。
「これはこれは。あなた方は、レオーネさんとロメオさんのご友人でしたね。先日は試合も拝見させていただきましたが、あれ以降もう一つの白星を手に入れていたとは、驚きました」
「どうもお久しぶりです。いやあ、その白星ですが、あと一つ必要なんです。今日は譲っていただこうかと思ってます」
ミナトが平然と言ってのけるが、デメトリオは眉一つ動かすことなく丁重に断った。
「申し訳ありません。お断りさせていただきます。我々も必要としているので、どうしても欲しいというのなら、本気でかかってきてください」
「では、そうさせてもらいます」
「あのときの実力のままという訳ではないでしょう。確かめて差し上げます」
淡々とデメトリオが述べたあと、マッシモが意気込んで、
「相手になるぜ。
「幸か不幸か、そんなものはどちらでも構いません。僕はこの試合が楽しみなんです。早くやりましょう」
「言ってくれるな」
と、マッシモがニヤリと口元をゆがめる。
「サツキもなにか、お二人に言っておくかい?」
まだのんきにミナトがそんなことを聞いてくるが、サツキは特に言っておくことはない気がした。
「いや。始めよう」
ミナトがふわりと透き通る笑みでクロノを見ると、クロノもついつられて笑顔になってしまった。
クロノはなんだか心地良い気分で会場に大きな声を震わせる。
「サツキ選手は今日もクールだ! 言うことはない、戦いで見せるということでしょう! 会場の熱気も高まる円形闘技場コロッセオ。今まさに、『ゴールデンバディーズ杯』の最後のイスをかけた戦いが始まります! 泣いても笑ってもこれで決まる!」
最後にクロノは、両サイドを見て、四人の準備ができたことを確認し、合図を出す。
「さあ! 両陣営、スタンバイできたみたいだぞ! 会場のみんなも、彼ら四人の一挙手一投足を見逃すなー! ということで、これより、サツキ選手&ミナト選手対デメトリオ選手&マッシモ選手の試合を行います! レディ、ファイト!」
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