78 『ドラゴンポスチャー』
すぅっと、
両手が龍の口にも見える独特の構えだ。
「出たー! 柏放選手のバトルが始まるとき、彼はこの構えを取る! その名も、《
『司会者』クロノが説明した柏放の構えからは、どんな攻撃が繰り出されるのか想像しにくい。
――構えに、柔らかさがある。しなやかな攻撃が来ると予想。
サツキは空手の構えを取った。
上段の構えで、左の拳を顔の少し前、右の拳は腰に位置にある。
「対するサツキ選手は空手の構えのようだ! 柔の柏放選手か、剛のサツキ選手か! 先に動くのはどっちだ!」
クロノの実況を聞いて、サツキは昨日の試合が頭をよぎった。ダブルバトル部門で戦ったヒヨク。彼は、柔術を使った。それに対してサツキは空手で敗れた。柔と剛、そう聞くとどうしても昨日のそれを思い出す。
――また空手でいいのか? ミナトは昨日、刀を使えばいいと言ってくれた。今こそ、そうしたほうがいいのか?
少しずつ近づいてくる柏放。
これに、サツキは動かずに対峙する。
そして来た。
柏放は拳を繰り出す。
――大丈夫、柔術使いじゃない。
サツキは頭を切り替え、拳を受けて自らも拳を繰り出す。
ここからの攻防は忙しくなる。
「サツキ選手、素早い柏放選手の攻撃にもひまなーい! 連続する攻撃と防御、目にも留まらぬ応酬だー! 見応えがある攻防に、会場も沸いているぞー!」
柏放の攻撃は流れるようで、かつ的確だった。
だが、サツキもこうした拳での戦いには慣れている。
――ロメオさんほどじゃない。これならついていける。大きな一撃を叩き込むために、戦いながら《
魔力を圧縮してパワーを溜める《
現状、ほとんど互角にやり合えている。
技術としては柏放のほうが上だろう。
しかしサツキも《緋色ノ魔眼》のおかげで相手の攻撃を見切っているし、このままなら《
「突き! 蹴り! 手刀に、突き! 一つ一つを解説できない速さで攻防が流れ、互いが互いに隙をうかがい、必殺技の使い所を狙う! 形勢は五分五分! さあ、どちらが先に仕掛けるんだ!?」
少しずつ、柏放の拳が重くなっていることにサツキは気づいた。
――柏放さん、強くなってきている? それがこの人の必殺技? いや、使い所を狙っているってクロノさんは言った。攻撃のリズムと身体の使い方が、パワーを強めているのか。
このままでは押され始め、柏放のペースに持ち込まれて必殺技というのをくらってしまうかもしれない。
そう考えてサツキが仕掛けようとしたとき、柏放が仕掛けた。
「いくぞ! 《
「くっ……」
柏放の連続攻撃がサツキを襲う。
「来ました! 柏放選手の《
数メートル後方に飛ばされて、サツキは腹の痛みに耐えて着地する。
――やばい。キツい。この人、身体の扱いがうまい。自在に手足が動いて翻弄してくる。しかも、近い。これが一番厄介だ。俺の間合いよりも近いんだ。柔術に近い距離感だろうか。やりにくい。
腹を押さえるサツキに、柏放が声をかけた。
「どうだ? この技を受けて立っているのは、なかなかつらいだろう。もう諦めて退場してもいいんだぞ?」
「それはできない相談です」
「ふん。そうか。ならば、こちらも全力で叩きのめすだけだ」
まだ完全には復活していないサツキを相手に、柏放はまたすぅっと構えを取ってみせた。さっきと同じ《
――この間合いの差……。やっぱり、刀で戦うべきなのか? でも、会場はそれを望んでいるだろうか……?
余計な考えが頭に浮かんだところで、もう柏放は次なる攻撃を仕掛けてきていた。
「サツキ選手、まだ態勢を立て直せなーい! しかし、柏放選手は動き出しているー! 柏放選手は再び《
柏放が手をしなやかに動かして飛びかかるように迫った。
「集中力が乱れているぞ! 迷っている者にも時間をやる私ではない。一気に終わらせてやる! くらうがいい、《
鋭い突きが飛んでくる。
サツキはこれをなんとか受ける。だが、それは一つ目の拳であり、二つ目の拳に態勢が崩されてしまう。
――しまった。足元が……。この人の言う通り、俺は迷いのせいで追い込まれているのか……? 集中力が途切れているのも、そのせいなのか……?
なんとか踏ん張って倒れなかったが、大きな隙ができてしまう。
「崩れたな。次で決める!」
緋色の瞳が柏放の身体を流れる魔力を読み取り、サツキは危険を察する。
――まずい。全力で来る。
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