52 『デジャヴ』

 謎の相手、仮面の騎士を相手にサツキは苦戦していた。


 ――強い! この剣を相手にカウンターの《待亀桜刀たいきおうとう》を決めるビジョンが見えない。かといって、ただこのまま戦っているだけでは、勝てない……! だったら――。


 サツキは距離を取って、帽子を片手に持った。

 それを見て、仮面の騎士は穏やかに聞いた。


「降参、という意味ではありませんよね?」

「まさか」


 帽子を構え、サツキは手前に投げた。

 瞬間、サツキはハッとする。


 ――この既視感、もしかして……!


 だが、サツキはもう走り出していた。

 距離を詰め、傍らの《ぼう》の効果で手元に戻ってくる帽子を足場に、仮面の騎士へと向かって跳んだ。膨らむの《ぼう》で加速する。

 バネを使って跳躍したように、ロケットみたいな飛び方で仮面の騎士に迫った。


「帽子が膨らみジャンプ台になったー! 魔法道具だったようです! 帽子で加速するなんて、サツキ選手、おもしろい戦い方をするー!」


 クロノがすかさず魔法道具の解説もしてみせた。

 手に力を込めて、サツキは斬りかかる。


「《おうれつざん》」


 練り込んだ魔力を一気に解放する大技。


「ハァッ!」


 サツキの《おうれつざん》を剣の力で受けきろうとする仮面の騎士。だが、サツキの大技が押し切る。

 ただ、仮面の騎士もうまく剣を扱い、またうまい身のこなしで、わずか三メートルほど下がるように受け流す。


 ――ダメか……?


 手応えは微妙なところ。

 もしこの大技が効いていなかったら、武器を介さずに大ダメージを直接お見舞いできる拳技で攻めるバトルスタイルに変える必要がある。だが、あの見事な剣捌きをしてみせる仮面の騎士に、剣よりも近接型の拳を叩き込めるだろうか。


「……」

「……」


 仮面の騎士は剣を左手に持ち替え、自分の右手を見て、剣を鞘に収める。それから、仮面の下で爽やかに微笑して右手のひらを見せるようにした。


「参りました。この通りです」

「……」


 一瞬、呆気に取られるサツキだが、自分も刀を鞘に収め、一礼した。


「ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 刹那の沈黙のあと、クロノは勝敗を伝える。


「サツキ選手の剣の威力は伊達じゃなかったー! 赤くなった仮面の騎士選手の手がそれを物語っています! 降参の宣言があったので、サツキ選手の勝利だー!」


 まだサツキはこれでよかったのかと思ってしまうが、今の戦闘を振り返って、既視感を覚えた。


「これは……」


 顔を上げて、


「あの」


 呼びかける。

 だが、仮面の騎士はもう舞台から下りて通路へと消えるところだった。サツキの声も届かない。

 舞台上ではクロノがしゃべっている。


「いやー、すごかった! サツキ選手、昨日に続き今日も剣の技も見せてくれました! サツキ選手、いかがでしたか?」


 質問を受け、サツキは丁寧に答える。


「剣術勝負だけなら圧倒されてしまうところでした。じっくり攻める機会をうかがって、なんとか耐えきることができたことがポイントになっていたと思います」

「なるほど! やはり仮面の騎士選手はかなり手強かったみたいですね」

「はい。とにかく強かったです。剣筋も美しかった」

「ええ、そうですね! 流麗な剣捌きに、会場も見とれてしまうほどでした! んー、いい試合を見せていただきました! 仮面の騎士選手にもまた挑戦していただきたいものです!」

「はい。それを願っています」

「サツキ選手、本日のシングルバトル部門もありがとうございました。ダブルバトル部門の参加までお待ちください」

「ありがとうございました。ダブルバトル部門も応援よろしくお願いします」


 サツキはクロノや観客席に一礼して、舞台を下りた。


「サツキ選手、ありがとうございました! あの素晴らしい仮面の騎士選手との攻防は手に汗握るものがありましたね! 仮面の騎士選手もありがとうございました! コロッセオ参加者の中でもトップクラスの剣捌きといってもいい腕前、次の挑戦をみんなが待っています! お二人に拍手を!」

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