8 『シスターズグロウ』
クコの誕生日ケーキを作るために、参番隊はサツキに相談した。
「というわけなんです」
「どうでしょう?」
自分たちの考えとクコに少し聞いたことを合わせてリラがサツキに説明し、チナミが意見を仰ぐ。
「大きいケーキにする。ケーキの種類は問わない。あとは、クコの好きなものを詰め込んで喜んでもらえるといいってわけだな。そして、士衛組と過ごす誕生日を大切な思い出にしてあげたい」
「はい」
「ならば、クコとの時間を振り返ってみたらどうだろう」
「クコちゃんとの、時間?」
ナズナが小首をかしげ、リラが言った。
「つまり、お姉様がどんなことに喜んで、どんなときに楽しそうにしていたのか。そこから、足りない要素を埋めるということですか?」
「そんなに難しく考えなくていいんじゃないかな。俺が思うに、材料はもうそろってる。幸いにも、クコの好きなものと作りたいケーキの要素は一致している気がするんだ」
「私たちが作りたいケーキを作れば、クコさんの好きなものになる、ということですね」
と、チナミが確認した。
「うむ。クコの好きなものに、『旅』があったと聞き出してくれた。だから、キーワードとして『旅』はあっていいと思う」
「はい」
「そして、リラとナズナとチナミは、クコに士衛組と過ごす誕生日を喜んでほしいと考えている。クコが両親とは別々に過ごす初めての誕生日を、士衛組との楽しい思い出にしたいんだろう? だったら、やることはシンプルだ。士衛組との旅をケーキで表現すればいい。そこに、三人がどんな気持ちを込めるかだ」
「クコちゃん、士衛組の旅のこと話すとき、本当に楽しそうでした。楽しい気持ちは大事、です」
とナズナがクコとの会話を思い返す。
「うむ。俺も同意見だ」
「リラは、士衛組のみんなをなにかケーキに表現したいです。お姉様が士衛組のこと、本当に大好きなんだってわかるから」
「なるほど。確かにそれだけでうれしいね。旅の楽しさも表現したい……けど、それは意外と簡単かも」
チナミが口元に手をやり思案する。
リラが前のめりに尋ねた。
「簡単なの?」
「うん。サツキさんが教えてくれた。どんな気持ちを込めるかだって。楽しかった思い出を形にして再現するだけだと思う。リラとナズナは絵がうまいし、私も手先は器用なほう。だから、楽しい旅を思い出せる、ランドマークになるようなものを再現してみるのはどうかな」
「すごい、チナミちゃん! それいいよ!」
「クコちゃん、喜んで、くれそう」
と、リラとナズナも賛同した。
「もう心配いらないな。がんばれ、参番隊」
サツキがそう言ってエールを送ると、参番隊の三人は笑顔で「はい」と答えた。
そんなことがあって、クコの誕生日。
各地でケーキの材料を買ったり、何度もケーキを作る練習をしたり、準備もバッチリして、当日を迎えたのである。
もちろん、ケーキはさっきのクコの反応でわかるように、参番隊の狙い通りに完成させられた。
クコは「士衛組のみんなと旅してきた日々の記憶、その一つ一つがぱぁーっと思い出されてきたんです」と言ってくれた。涙ぐんでくれた。
そして、「ででーんっと大きくて、最初はただびっくりしてしまったんですが、このケーキにはいろんな思い出や気持ちが詰まってるように思うんです! 懐かしくて、楽しくて、うれしい、最高のケーキです!」とも言ってくれた。
「たぶん、リラとナズナがクコさんのためにあれこれ試行錯誤して、いっぱい考えたからです。あと、サツキさんにもアイディアをもらったり」
チナミがそう説明すると、ナズナが続けて、
「クコちゃん、旅が好きになったって聞いて、士衛組のみんなといっしょだから、旅が好きになったっていうのも、わかったから、士衛組のみんなもいるんだよ」
「士衛組のみんなは食べられないお人形です」
とリラが言う。
リラの言う人形は、リラが魔法《
――ポパニに向かう列車の中で、絵を描いたことがあった。最初は景色と列車を描いただけでしたが、お姉様の反応はそれほどではありませんでした。リラの絵を上手だと褒めてくれただけだった。だから、いっしょに列車に乗っていたリラたちとお姉様を絵の中に描き足した……その絵を見たときのお姉様はうれしそうでした。それで、士衛組のみんなもいたら喜ぶと思ったんですよ。
話を聞いて、クコはますますケーキに釘付けになっていた。目がキラキラ輝いている。
「リラは今、こうしてお姉様の横にいますが、お父様とお母様はここにいません。初めて、お外でお誕生日パーティーをしますね。でも、士衛組のみんながいれば、また違ったうれしくて楽しい気持ちになれるって思って、こんなケーキにしてみたんです」
リラに笑顔を向けられて、クコはまたリラとナズナを抱きしめた。もちろん、チナミもいっしょに。
「最高のケーキです! 感動しましたっ!」
「大成功だな。リラとナズナとチナミがどれだけクコのことを考えて、クコのために準備して、どれだけ気持ちを込めたか。伝わったみたいだな」
「は、はい」
と、ナズナが涙ぐむ。
「ナズナちゃんが泣いてどうするの?」
リラは小さく笑って言うが、涙も伝染してしまっている。そこをチナミにつっこまれる。
「リラも泣いてるじゃん」
「もらい泣き、かな」
「がんばって、よかったね。クコちゃんが喜んでくれて、ホッとしちゃった」
「そうだね」
涙もろいナズナとリラを見て、チナミはふっと微笑む。
「やったね、ナズナ、リラ。たくさん練習した成果が形になって、クコさんにも伝わって」
ナズナとリラは、クコとはいとこと妹なのである、だから、クコに誕生日を喜んでもらいたい気持ちが特別強い。チナミは同じ参番隊としてナズナとリラの力になりたかったから、クコの喜ぶ顔がうれしかった。
そんな参番隊の様子を見て、そして参番隊の二人と共にいる妹のリラを見て、クコはまた少しだけ涙が瞳の端にたまるのがわかった。
――リラ、本当に大きくなりましたね。これまで、だれかと協力してなにかをしたことがない子だった。わたしのために絵を描いてくれたときも、なにか作ってくれたときも、いつも一人だった。
小さい頃からのリラの姿が思い起こされる。母に教わってクッキーを焼いてみたり、外で泥だんごを作ってくれたりしたこともあったし、クコの似顔絵を描いてくれたこともあった。姉妹の仲もよかったから、いろんなうれしいこともたくさんあった。
でも、そのリラがお友だちやだれかとなにかを作ったりなにかを成したのを見たことはなかった。王女という立場もあって、勉学も家庭教師に習い、同年代の友人を作ってこなかったからだろう。
今日、そんなリラが見せてくれたのは、同い年の友人であるチナミといとこのナズナとで、クコのために頑張ってケーキを作ってくれた姿だった。リラの成長がうれしくなって、クコは参番隊を優しく見守りながら、
――自分以外の人と力を合わせられるようになって、こんなに大きくて素敵なケーキまで作れるようになって、リラは本当に成長したんですね。一人で旅をしてきて、いろんな人に出会って、いっしょにお城でわたしの誕生日を祝ってくれた一年前より随分大人になっちゃって……。きっと、良い旅をしてきたから。そして、良い出会いをしてきたから。参番隊もとても良いチームになってますね。姉として、こんなにうれしい日はなかったかもしれません。
と心の内で感激していた。
――これからもリラが、この二人とずっと仲良くいられますように。
参番隊を見ながらそんな願いを胸に想っていたクコに、リラが気づいてにこっと微笑んだ。
「ほら、お姉様っ。リラたちじゃなくて、もっとケーキをごらんになってください」
そうです、とチナミも言って、
「士衛組のみんなの人形がいるのは、旅したいろんな場所になっています。そっちは食べられますよ」
「場所、ですか?」
と小首をかしげたクコの手を、「そうだよ」とナズナが引いた。
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