56 『クオドエラトデモンストランダム』

 円形闘技場コロッセオ。

 出場者は、一階席で観戦できる。

 シングルバトル部門でサツキが対戦した少年・シンジは、観客席に座ってサツキとミナトが戻ってくるのを待っていた。


「あ、おかえり。サツキくん、ミナトくん」

「ただいま戻りました」

「どうも」


 サツキがシンジの隣に腰を下ろし、ミナトがそのサツキの横だから、サツキを挟んでミナトとシンジが座る形になる。

 シンジが興奮気味に聞いてきた。


「すごかったよ! よくあのピノ選手の魔法に気づいたね! どんな魔法だったの?」

「《脱出不可能アリアドネいと》ですよね」

「そう。あれって、観客もあんまり詳しくは知らなくてさ、ピノ選手の『アラネアの盾』に攻撃が集まっちゃうってことしかボクもわからないんだ。ダブルバトル部門だし、ボクは戦うこともないしね」


 よりいろんな相手と戦えるチャンスがあるのは、ダブルバトル部門にも参加しているメリットといえる。サツキは答える。


「結論から言うと、《脱出不可能アリアドネいと》はフィールドに蜘蛛の巣のように魔力の糸を張り巡らせて、その範囲内にいる相手の攻撃をすべて盾に集めるというものです。糸は石畳に広げるだけで、身体が絡め取られることはないんですが、たとえば魔法陣みたいに、その下にいる相手を効果の対象とします」

「へえ。だからフィールドに拳を」

「はい。俺のグローブ、ロメオさんにいただいた魔法道具なんです。ロメオさんの魔法《打ち消す拳キラーバレット》と同じ効果を持ちます。つまり魔法効果を打ち消すことができます」

「え!? そうなの? いいなー! ボクも欲しいよぉ」


 あはは、とサツキは苦笑する。はいどうぞとあげられるものでもないし、ロメオと玄内に頼めるものでもない。


「でも、よく気づけたね。そんな魔法の糸に」

「俺の《いろがん》は、魔力を可視化します。だから、フィールド上に張り巡らされた《脱出不可能アリアドネいと》の存在に気づけました」


 そこまでは、ミナトはわかっていた。サツキの魔法のおかげで仕掛けがどこにあるのかに気づけたのだ。しかし、ミナトもわからないのはこの先である。


「それで、条件もあるんだろう? 僕の攻撃は、必ずしもピノさんの盾に吸い寄せられなかった。フリオさんに繰り出せたものもある。スピード、パワー、向き、とか条件は僕も考えたけどわからなかったんだよね」

「あれはな、地面に接地していなければ効果対象から外れるんだ。ミナトは上空から攻撃しただろ。そのときだけフリオさんに攻撃できた」

「確かに、一度目、先制攻撃は地に足をつけてたから盾に吸い寄せられて、フリオさんの攻撃を受けるときは身体をひねって宙にいた。次からは空中からの攻撃だったね」


 ミナトが思い返している横で、シンジは思い出したように言った。


「そうそう! すごかったよミナトくん! あの大きな『災いの大剣メルムグラディウス』を弾き飛ばすんじゃないかってパワー! しかも何度か速すぎて見えなかった!」

「いやァ、見えたら遅いかなって」

「遅くないよ、全然」


 と言ってシンジが笑うと、ミナトも笑い返した。


「サツキくん、ほかにもフリオ選手について教えてよ。フリオ選手、サツキくんとミナトくん相手ではそんなに凶暴さを見せてなかったけど、普段はすごいんだよ? 攻撃が全部ピノ選手に集まると、その隙をついてフリオ選手がみんな倒しちゃうんだ」

「それが戦術なんだと思います。あのグレートヘルムは、普通のグレートヘルムより視野がなくなるんです。ほとんど見えてないんじゃないかな。効果を突き詰めていた場合、視界を完全に失っているかもしれません。小さな通気口と目線の空間で制限された分、パワーが増強するような魔法っぽいです。失った視界を、常にそばでピノさんがサポートして、メインのアタッカーをフリオさんに担ってもらう。そのため、二人はぴったりくっついて戦うスタイルでした」

「そっか。ピノさんの魔法を知っている相手は、地面から足を離して攻撃を仕掛ける。その滞空時間を突くわけだね」


 ミナトの言葉に、サツキはうなずく。


「うむ。滞空時間、それは身動きが取りにくくなって隙ができる時間でもある。だから、フリオさんは隙だらけの相手を攻撃しやすくなる。ピノさんの盾の弱点は、宙にいる相手。しかし、その宙にいる相手は、フリオさんの餌食になる。そうやって補い合い、絶妙なコンビネーションで戦っていた」

「さすが、ここまで高い勝利で上ってきたコンビだ」


 と、シンジも感心している。

 ちなみに、ミナトの《瞬間移動》はこうした《脱出不可能アリアドネいと》の特性をすり抜けることができた上、宙にいてもまた《瞬間移動》で消えることができるため、フリオは対応しきれなかった。ただし、ミナトは連続の《瞬間移動》さえしていなかったが。


「そういえばサツキ、あの答えは?」

「あの?」

「ピノさんが出題したじゃないか。1+1はなんだと思うって」


 サツキは苦笑した。


「そんなの野暮だろう。答えは2だ。でも、二人なら無限大になるって言いたかったんだと思う」

「いやあ、普通のこと言ってたんだね」


 笑うミナトに、シンジが横から教えてくれるには……。


「それなんだけど、いつも彼らは対戦相手に聞くんだよ。答えは、『時に1と1、だが3にも4にもなるんだ』って言ってた」

「あはは。確かに、あの強さは3にも4にもなってた。サツキ、僕らは無限大になろう」

「うむ」

「ははっ。やっぱり、サツキくんとミナトくんは彼らとスケールが違うみたいだね。彼らの強さだけどさ、あの盾が……」


 そのあとも、話し合いをして議論するみたいにしゃべっていた三人だが、どうやら舞台のほうでは、レオーネとロメオの対戦相手の選手たちが登場したらしい。

 レオーネとロメオほどではないが、会場の観客たちが声援を送っている。


「いよいよだね、次の試合。そして、本日最後の試合!」


 シンジが言って、ミナトが楽しげに選手二人を見る。


「僕、サツキと違ってレオーネさんとロメオさんの戦いを見たこともないんだ。対戦相手がどうかはわからないけど、楽しみだよ」

「うむ。『ゴールデンバディーズ杯』に出場するためにも、ダブルバトルをもっと知りたい」


 サツキの言葉にシンジが反応する。


「二人は『ゴールデンバディーズ杯』に出場するんだね」

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