46 『デビューマッチ』
円形闘技場コロッセオ。
ここで、サツキのバトルが始まった。
対戦相手は、同じ晴和人の少年・
サツキが見たところ、シンジは剣などの武器は持っていない。素手で戦うタイプらしい。
――拳か、足技か、柔術か。それとも、炎や氷による遠距離攻撃か。
考察しようとするサツキだが、シンジはダッシュで距離を詰めてきた。
――近距離型。ならば、間合いが命。こちらは刀で迎え撃つ。
さっと刀を抜き、構える。
「いくよ!」
「……」
シンジの攻撃宣言に、サツキは愛刀『桜丸』を下段に構えて、踏み込んだ。
「《
「それじゃあボクは倒せない」
余裕の笑みで、シンジは刀に向かって手を伸ばした。
――手が、斬れるぞ。
そう思ったが、杞憂だった。なぜなら、シンジの手は、刀をぐにっとめり込ませて、受け止めていたからである。
「この感触は……」
「そう。餅さ。ボクの魔法は、《
刀に力を入れても、斬れる感じがしない。
「出ましたー! シンジ選手の《
サツキは刀をシンジから離して下がる。
――もう一度だ。
また斬りかかった。
「無駄だよ」
シンジは《
――クコの《スーパーグリップ》みたいだ。
クコの場合、摩擦力によって捕まえられてしまう。対してシンジは接着されている感じがする。
むしろ、クコが以前メイルパルト王国で戦ったスライム使いのプリシラに近いだろうか。クコはあくまで摩擦力を働かせるだけで、刀を平気で受け止める芸当はできない。スライムのような、特殊な効果をまとわせているようだ。シンジ本人は餅と言っていたが、どれほどその特性を再現しているのだろうか。
「それっ」
「なにっ!?」
刀は、シンジの手にくっついたままサツキの手から引き剥がされ、放り投げられてしまった。
「吸着力も高められるのさ」
サツキは刀を取りに行こうとはせず、戦術を変えることにした。
――刀がダメなら、空手だ。
即、回し蹴りを叩き込む。
しかし、ぼよんと柔らかいような固いような不思議な感覚で、衝撃が吸収されてしまった。
「言ってなかったね。ボクの《
シンジは連続攻撃をしてきた。とにかくはたくように殴りつけてくるのである。攻撃を捌くが、上手く後ろを取られてバチンと背中を叩かれ、
「かはっ」
とサツキは声を漏らす。
「すごいぞシンジ選手! 猛攻撃だー!」
なんとか持ちこたえて、サツキは下がって距離を取る。
「悪いね。次で決めるよ」
「……」
ふう、と息を吐き、サツキは体勢を整える。
――シンジさんの戦い方、だいたいわかった。俺は観察させてもらいながらも、ずっと《
すぅっと、サツキは構える。両手を下に、拳は握って、突きを繰り出せる体勢になった。
「くらえっ!」
駆けてくるシンジに、サツキは踏み込む。
「《
一瞬にして身体を深く沈ませ、サツキは正拳突きを繰り出す形だが、掌底打ちのように手のひらは突き出した。
サツキの手のひらが、シンジの腹に触れる。
押し出すように触れられた手のひらを、シンジは余裕の顔で受ける。
「この弾力で吸収……」
しかし、衝撃が吸収されることはなかった。
「できない!」
刹那の間を置くと、シンジの身体は弾かれたように後方へと飛んでいってしまった。まるで弾丸が撃ち込まれたような吹っ飛び方である。
「ぐあっ!」
観客席の壁にぶつかる直前、シンジは反射的に魔法《
――ロメオさんにもらったこの《
元々、《波動》の力が《餅肌》を突き破ったかもしれない。それでも、念には念を入れてグローブの力を使わせてもらったのである。
クロノは高らかに宣言した。
「決まったー! サツキ選手の掌底! その名も、《
会場からはすごい声援と拍手が聞こえてきた。
――すごい。うれしいけど、恥ずかしいな。でも、なんだか自分が強くなったことも実感できたし、楽しかった。ロメオさんにもらった《
サツキは綺麗にお辞儀した。
「ありがとうございました」
また歓声が響き、サツキは舞台を下りた。
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