31 『メリーウェルカムビジター』
夜。
夕食の準備をできたことを告げるため、ルーチェが各部屋に声をかけて回った。
「お食事のご用意ができました。大広間へご案内いたします」
はい、とサツキは答えて廊下に出る。
ルーチェがみんなを連れて、ロマンスジーノ城の一階部分に移動した。厨房が一階にあるため、食事も一階で取ることが多いのである。
大広間に通された。
格調高い長テーブルが一つ。
部屋の広さから、この長テーブルだけで三十人くらいは一度に食事ができるだろうと思われる。
石造りの床も綺麗に磨かれて、壁には彫刻があり、ランプの黄色い灯りも暖かい。重厚感があるのに圧迫感がないとでもいおうか。
そんな貴族や王族しか使えないような雰囲気の部屋に、この場に似合わぬ二人組がいた。
サツキは驚く。
知っている二人組だからである。
見慣れた顔だが、会いたかった二人でもあった。
先客の二人は、サツキたちを見るとやたら明るい笑顔を向けた。
「あ、やっと来たー」
「おーい、こっちこっちー」
どうやら、向こうはサツキたちがこの城にいることをあらかじめ知っていたらしい。いつものようにフランクに手を振った。
だが、サツキには疑問も浮かぶ。
――なんでここにいるんだろう。『
もし、サツキがヴァレンのつぶやきを拾えていれば、推理できていただろう。
ヴァレンは昼間、レストラン『センティ』で、
「あんなものはたいしたことないわ。アタシとルーチェはあのとき、
と言った。
そのとき、ヒナだけが魔法でそのつぶやきを聞き取れた。うさ耳のカチューシャは、魔法を使うための媒介となっており、魔法《
だが、ヒナはそんなことどうでもいいと思って聞き流していた。
それに比べて、サツキも目の前にいる先客二人が「大仏様の写真を撮ったりしてた」と口にしたのを覚えていた。晴和王国の王都を発って
だから、今サツキは素直に驚いていた。
びっくりしていたのは士衛組みんながそうで、クコはうれしさと驚きを顔に出してルーチェに聞いた。
「ゲストって、アキさんとエミさんだったんですね」
「はい。ちょうど今日、このマノーラにいらしたそうですよ」
とルーチェは微笑む
この場にいるゲスト二人は、
士衛組とは旅の中で何度も出会っては別れてを繰り返している、『トリックスター』とも呼ばれる不思議なコンビ。
サツキがクコによってこの世界に召喚されて、初めてできた友人で、ここマノーラに到着してからサツキは一度だけ姿を見かけていて、また会いたいと思っていた。
ヒナが呆れたようにサツキにささやく。
「なんか、せっかくこんなにいい部屋に来て王族になった気分だったのに、あの二人がいると庶民的な部屋になったみたいで複雑よね」
「いいじゃないか」
「まったく、サツキもみんなもあの二人に甘いんだから」
ヴァレンたちこの城にいる人々も、士衛組も、気づけばいつもあの二人のペースになっている。
「お知り合いだったのですか?」
リラが尋ねる。
サツキも気になってルーチェへ顔を向けると、簡潔に説明してくれた。
「去年知り合ったんですよ。そのときには、ひと月ほどこのロマンスジーノ城に宿泊されました。といっても、イストリア王国中を観光するとのことで、数日戻ってこなかったり、自由に過ごされていましたけどね」
「その後、ロマンスジーノ城を発ってすぐ、クコさんとバンジョーさんに出会ったみたいです」
とロメオが補足してくれた。
クコがアルブレア王国から旅立って、アキとエミとはマノーラで出会ったと言っていた。つまり、出会いの直前まではここにいたということだ。そんな前後の偶然にサツキは感心するが、クコとバンジョーはもう楽しそうにアキとエミとおしゃべりしていた。
「ということは、アキさんとエミさんは『
チナミがサツキを見上げる。
サツキとしては、チナミの思っていることもわかる。
「アキさんとエミさんは、
「はい」
意外性のある二人だから、『
ロメオ曰く。
「あの二人は『
「なるほど。お二人らしいですね」
おそらく、自分たちはしっかり『
だが、それもアキとエミらしくて悪くないと思うサツキだった。
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