28 『ワイルドカード』
玄内の手の中に、鍵が出現した。魔法の鍵である。
「レオーネ。首をこっちに向けろ」
「はい」
素直に優雅な動作でレオーネは座ったまま玄内に背を向けた。
「その魔法、没収だ」
ガチャッと鍵をひねり、玄内は鍵を抜いた。
「なるほど。理屈はわかった。弱点もわかった。おまえのデッキは補助カード不足だ。ただ補助カードを足してもいいが、もう一工夫してやる」
「もう一工夫ですか」
レオーネにはどういう意味なのかわからない。
「待ってろ」
手の中にカードを出現させ、玄内は山札を切る。シャッフルを終えて、五枚引いた。
「手札は五枚。この中に場面に合ったカードが来るとは限らないってことだ。多少の融通性を持たせる」
「先生、どうするんですか?」
「なんかやべえことしそうだな」
弐番隊のヒナとバンジョーが気になってやってきて、手札を覗き見る。
「手札を七枚にすれば、それだけで利便性は向上する。また、デッキの見直しもしてやる。全体的に補助カードを増やす。おれの魔法で創造するから、その辺は使い慣れろ。そして、いつでも好きなときに使えるジョーカーを仕込む」
「ジョーカー?」
「引いたらダメじゃないっすか」
ヒナとバンジョーに玄内はつっこみを入れる。
「ババ抜きじゃねえ。このジョーカーは特別だ。手札や山札とは別に、常に隠し持っておけるワイルドカード。それも、数あるカードから好きなカードと引き換えできるもんだ。デッキをまたいで使うこともできる。ただし、一度使えばトラッシュすることになる。さしずめ、カード名は《
「……さすがは、『万能の天才』。すごいですね」
レオーネは呆気に取られたように笑みを浮かべる。
「ついでだ。ロメオは、おれの持ってる情報が正しければ、他者の魔法をすり抜けられるものだったな」
「はい」
「せっかくコンビで動いてるんだ。《
「ワタシがですか」
「カードは使ってトラッシュすることで、次の手札を加えることができる。つまり、いらない手札を消せばいい。そうすれば次が引けるからな。ロメオ、おまえの魔法名はなんだ?」
「ゴーグルをかけて魔法を無効化してすり抜けるのが、《
「そうか。じゃあ、《
「どこまでもすごい……使い放題じゃないか」
レオーネは髪をかきあげて笑った。
デッキを替えるには、カードを五枚以上トラッシュする必要がある。だから、それさえクリアすれば、デッキを入れ替えるたびに好きなカードを使えることになるのだが、ロメオの管理によりデッキも自由に入れ替えられる。つまり、ロメオといっしょにいれば、いくらでも好きなカードを使えるわけだ。
元より玄内は自分が没収した無数の魔法を使い放題なのだから、カードを使いロメオの協力も得る手間さえない。時間のロスなく好きな魔法を使える玄内には、レオーネも少なくともそれくらいはやれたほうがいいという認識でしかない。
サツキは、レオーネの補助カードを見たことがある。それは《
玄内はルーチェにも呼びかける。
「ルーチェ。おまえはワープができるが、効果は?」
「はい。ワタクシの魔法《
「そうか。じゃあ、おまえの魔法もちょっと手を加えてやる」
「ありがとうございます!」
「登録地点の数を五カ所に増やす。ただし、ここロマンスジーノ城は拠点のため入れ替え不可の第六の地点。残り五カ所は好きな場所を登録すりゃあいい。ついでに、人物はまた別に三つ登録できるようにしてやる。主のヴァレンと兄のレオーネ、ついでにリラの隣には、登録した場所じゃなくとも自在に行けるようにしてやるがな」
「なんと素晴らしい効果でしょうか。感謝に堪えません」
「ヴァレン、ラファエル、リディオはあとで与えてやる。場合によっては、所持してる魔法の強化より、新しい魔法のほうがいいだろうしな」
「わーい! ありがとうございます! 楽しみだぞ!」
「す、すみません。ありがとうございます」
リディオは大喜びでバンジョーとハイタッチしており、ラファエルはうれしさと期待を隠して照れているようにも見える。
ヴァレンは気品ある微笑みで、
「申し訳ありませんね、玄内さん。アタシたちが協力してもらってるみたいになっちゃって」
「いいさ。こっちも与えた魔法を使って協力してもらうんだからな」
このあと、ルーチェの《
「さて、三人共。首を向けて並べ」
「はい」とレオーネとロメオとルーチェが玄内に背を向けると、玄内は鍵を差し込む。レオーネには《
今度はレオーネが士衛組に《
「実感はわかるときもあればわかりにくいときもある。でも、一段のぼったことは確かだ」
「どうだい? サツキ、実感は?」
ミナトがさっそくサツキに聞くが、サツキは自分でもわからなかった。
「まだないな」
「じゃあ、あとで修業しよう」
「うむ。望むところだ」
おやつをいただいたあと、それぞれが部屋に戻った。
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