6 『スターゲイザー』
サツキとミナトは宿に戻った。
いくら時間があっても足りないくらい、二人で遊びながら見て回ったから、観光が充実したのかただ楽しかったのかわからない。だが、二人は満足だった。
みんなも思い思いに楽しんできたらしい。
夜には、みんなで夜景も眺めた。
この夜景を一望できる丘の上の宿なので、部屋のベランダから楽しんだ。
鮮やかな青い夜空の下に黄色やオレンジ色の光が灯った港町は、サツキがこれまで見てきたどの夜景とも違った美しさだった。
クコが海岸線を見ながらうっとりと息をつく。
「なんだか夢のような景色ですね」
「絵にしたいわ」
と、リラは絵を描き始める。
「わ、わたしも」
ナズナもリラといっしょに絵を描き、チナミはその絵を優しく見守る。
「やっぱりナズナの絵は大胆なところもあって好き」
「あ、ありがとう。チナミちゃん」
「リラの絵も景色を切り取ったみたいで、なんだか思い出がそのまま残る感じ。線の丁寧さがリラらしいのかも」
「ふふ。チナミちゃん、ありがとうね」
参番隊の三人はそんな会話をしている。
ルカはじっと夜景を眺めて、
「灯りの明るさと賑やかさ、それと静かな空気が同居してるように私には見える。この地方の景色もいいわね」
「うむ」
サツキはうなずくが、急にルカといっしょに見た
――そういえば、ルカは変わりたいと思って王都に行って、戻ってきたときに見た景色に自分の変わらなさを重ねていたんだよな。
ルカは
ルカは穏やかに語を継いだ。
「でも、私は自分の故郷の景色もいいものだとわかったわ。あなたと旅をして、考えが変わったのかしら」
「さあ。気づいただけかもしれないぞ。変わらない自分も変わってゆく自分もあって、そのどちらも悪くないって」
ルカは目を見開く。ぽつりと、つぶやいた。
「なんだか、答えが出そう……」
「答え……?」
「もう少しで、出そうな気がする」
「ん?」
「ふ。変なこと言ったわね。サツキ、素敵な景色を見せてくれて感謝するわ」
うむ、とサツキはうなずく。だが、ルカがなにを考え、どんなことへの答えが出そうなのかはわからなかった。
ミナトはそんなサツキに声をかける。
「明日の朝、出発の前に『群青の洞窟』に行こう。海岸で剣の修業をしたらさ」
「修業もするのか。忙しいな」
「大丈夫。ちゃんと起こすから」
サツキは苦笑する。
ふと、みんなとは違って北のほうの空を見上げたヒナを一瞥し、サツキは考える。
――マノーラは、あっちの方角だもんな。
天文学者の父を想っているのだろうか。
ヒナは、少しの間、じっとマノーラの方角を見つめていた。夜景に視線を戻そうとすると、不意にサツキと視線が絡まった。小さく口を開き、一歩踏み出して、サツキとミナトに笑いかける。
「ちょっとミナト? 今夜もあたしとサツキは先生と研究があるのよ。明日の朝は剣術も休みにしなさいよ」
「日課だからなあ」
「俺はちゃんと起きられるぞ」
「そうだ、ヒナもどうだい? 横で素振りでも」
「あたしを混ぜるならちゃんと組み打ちさせなさいよね」
「ふむ。ヒナもやる気だな」
「わたしもやりますよ!」
クコも明るい声で会話に加わり、玄内がふっと笑う。
バンジョーが腰に手を当てて言った。
「オレもがんばって魔法を覚えるぞ! 出てこい、《
手のひらを上に向け、声を張り上げて気合を入れる。魔力でお菓子を作り出す魔法で、バンジョーは
これができるようになれば、魔力を込めたお菓子を食べた人はその分だけ魔力を回復できる。魔力の内包量が多いバンジョーがつくればより効果的だと玄内は考えていた。
しかし神龍島に滞在中も、最後まで習得できずに、そのあとは玄内が指導を引き継いだのである。
「デカい声を出せばいいってもんじゃねえ。魔法ってのは、創造力がなにより……」
玄内が言いかけたとき。
ぽん、とバンジョーの手のひらにおまんじゅうが出現した。
「うおー! できた! できたぜ! いえーい!」
「ま、創造力を高めるのに気合も大事ってことか。おれのほうが勉強になるとはな」
喜ぶバンジョーに、クコが拍手しながら「おめでとうございます!」と祝福し、ミナトが「それいただいていいですか?」と言うとバンジョーは快く差し出した。
「食え! オレの初めての魔法だ!」
「どうも。いただきます。あ、おいしい」
「だろう? て、まだ食ってねえじゃねえか」
「早くバンジョーさんを喜ばせたかったもので」
「そうか」
なっはっは、とバンジョーが笑った。
ヒナはそんなみんなを見て微笑む。そうしたヒナの表情にも、サツキが気づいており、なぜかまた、不意に視線が絡まった。
互いに微笑み、視線を外した。
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