52 『空から降るものあるいは神龍島探険』

 早朝。

 サツキが起きると、恐竜たちが海老川博士えびかわはかせに話しかけていた。


「おや。おはようございます、サツキさん。例の船ですが、もう見つかったようですよ」

「おはようございます。そうですか。早いですね」


 サツキは恐竜に向き直り、礼を言う。


「ありがとう」


 お礼を言われた恐竜は、ギャウと返事をした。そのあともギャウギャウとなにか言ってくれた。


「どういたしまして、と言っているのかな」

「惜しいですね。またなんでも頼ってくれ、と言っています。宝探しと似ていて楽しかったそうです」


 そういえば、恐竜たちは宝探しをして遊ぶのが好きだとチナミが言っていたな、とサツキは思い出す。


 ――こうして探し物に慣れているからこそ、博士は恐竜たちに協力してもらったんだろう。


 現に、恐竜たちは一晩で船を見つけてきたという。

 海老川博士は続けて言った。


「それでは、私はこのあと、玄内さんと潜水艦を見に行きます。サツキさんは朝ご飯でもいただいてください」


 さっそく玄内と海老川博士は恐竜の案内で潜水艦を発見した。アルブレア王国側の技術がどこまでのものかをまざまざと見せられ、自分の技術開発に生かそうとした。

 家の中では、朝食の準備をするバンジョーが台所に立ち、それを待つようにテーブルで参番隊が仲良く話していた。チナミの期待通り、同じベッドでおしゃべりしながら寝た参番隊は親睦を深められた様子だった。ヒナも混ざって四人で楽しそうである。

 クコは外に出てぐっと伸びをする。


「リラも参番隊でうまくやれているようで安心しました! ん~! 気持ちのいい朝ですね! こんな日は、なにかいいことがありそうな気がします」


 そこにサツキがやってきて言った。


「いいこと?」

「あ、サツキ様。はい、なにかいいことがありそうな天気だなって。たとえば、夏の終わりに季節外れの雪が降るとか」

「ふ。この世界なら、なにが降ってきてもおかしくないな」


 小さく笑ってサツキがつぶやく。


「去年は、イストリア王国のマノーラでは夏に雪が降ったんですよ。わたしは見ていませんが、八月一日のことです」

「これから行くイストリア王国は、そんなに気候が不安定なのか?」

「いいえ。普段はルーリア海に面した穏やかな気候です。マノーラだけで雪が観測されたようですから、だれかが魔法を使ったのかもしれませんね」

「なるほど。じゃあ、だれかが魔法を使っていたら、本当になにか降ってくるかもな」

「わぁーい!」

「そろそろ着地だー!」


 変な声が聞こえてきた気がして、サツキはクコに聞く。


「今、なにか言ったか?」

「いいえ。わたしでは……」

「じゃあ、バンジョーたちか。やれやれ、朝から元気な……」


 そこまで言いかけて振り返ったとき、サツキの背中に、人の気配がした。


「あー! サツキくん! どうしたのさ!」

「クコちゃん、こんなところでなにしてるのー?」


 その声に、サツキとクコが同時に振り返る。

 そこには、体操選手の着地のように両手をあげた男女が立っていた。二人共、朝なのに元気な笑顔である。

 クコがすっとんきょうな声をあげた。


「えぇ!? アキさん! エミさん! どうしてここに!?」

「まさか、雪どころか人が降ってくるとは……それも、アキさんとエミさん……」


 いや、この二人だからギリギリあり得る話として受け止めやすいような気がしたサツキであった。




 朝食の席には、アキとエミも加わった。

 二人はすでに朝ごはんは食べたと言っていたが、衰えることのない食欲でクコの倍もの量を食べてしまった。


「まさかお二人も来てくださるなんて、楽しくなりますね!」


 クコとバンジョーとミナトは楽しそうになじんでいるが、他の面々はまだ半分くらいは驚きが抜けない。


「うん! ボクら、ミナトくんと遊びたかったからちょうどよかったよ!」

「アタシたちが元気にしちゃうよー!」

「そうだ、このあと島を探険しようよ!」

「いいね! 空から見たら恐竜がいたもんね!」


 ということで、朝食後、サツキ、クコ、ルカ、バンジョー、ナズナ、チナミ、ヒナ、フウサイ、ミナト、リラ、アキとエミの十二人で恐竜を探しに散歩に出かけた。玄内と海老川博士は研究するということで、家に残っている。地質調査のほうも進めておくと言っていた。ちなみに、フウサイは基本的に影からサツキを見守っているとのことである。

 一行は山を登って、崖にかかる橋を渡り、少し遠くまで足を伸ばしていた。


「きのうは小さい恐竜しか見ませんでしたね」


 キョロキョロと見回すクコに、サツキがうなずく。


「ああ。けど、乗れるほど大きな恐竜もいるとチナミは言っていたな」


 先頭を歩くチナミが答える。


「はい。橋を渡ったこちら側には大きい恐竜も出ますからね。でも、乗るには三メートルくらいのがちょうどいいです。もっと大きいのは乗るには適してません」

「大きいのは……ちょっと、怖いな」


 ナズナが眉を下げる。

 リラはそんなナズナの肩に両手を乗せて、


「大丈夫。チナミちゃんもいるし、食べられたりしないよ」

「うん」

「あたしもいるしね。ふふん、好きなだけお姉さんに頼りなさい。この島の恐竜はみんなあたしの友だちなんだから」

「あなたにも友だちがいたのね。安心したわ」


 さらりと言うルカに、ヒナが言い返す。


「どういう意味よ。根暗なあんたにだけは言われたくないんだけど」

「特に意味はないわ。参番隊に入れず、玄内先生にしごかれ、ミナトには茶々を入れられる。そんなあなたにも友だちがいて良かったと思っただけよ」

「ムキー! 言わせておけばぁー」


 とルカとヒナがケンカをはじめたところで、広い場所に出た。景色が開けたと思うと、恐竜たちもいた。


「うおおお! いるじゃねえか!」


 バンジョーが駆け出した。


「行くぞ、ミナト」

「うん」


 サツキとミナトも走り出して、みんなも恐竜に近づいていった。何種類もの恐竜たちがいて、最初はおとなしい子から見た。草食で人間を怖がらず、襲ってもこない。

 みんなが恐竜とふれあっている中、ミナトがサツキに言った。


「ちょっとほかのも探してみようよ」

「そうだな」


 ミナトがアキとエミに顔を向けて、


「僕とサツキはほかの恐竜も見てきますね」

「わかったよ!」

「いってらっしゃい」


 さっそく、二人は草原を駆けて、茂みに向かった。

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