11 『参番隊の集合あるいは決起』

「そういえば、参番隊はどうだ?」


 チナミの部屋でふたりきりで詰め将棋をしながら、サツキは聞いた。

 聞き方がややざっくりとしているが、チナミにもサツキの問いの意図はわかる。要するに、リラとうまくやれそうか、という話である。


「戦闘力は高くない隊ですが、連携も問題なさそうですし、いい隊になると思います」


 今日の昼間――チナミがナズナと再会し、チナミとリラは初めて出会った。

 これによって、参番隊が集合した。

 参番隊をこの三人とするとサツキが宣言してからだと、あまり時間は経っていないはずだったが、他の隊は先にそろって任務に当たっているのを横目に見ていたし、チナミには参番隊の集合がなんだかようやくといった心持ちがする。

 チナミが最初にリラと会ったときの感想は、


 ――この子となら、うまくやれそう。


 であった。

 見たところ、クコ以上にお姫様然としていて、おしとやかで聡明そうだが、か弱さがにじんでいる。本人は明るい笑顔で健やかに振る舞っているものの、深窓の令嬢然とした線の細さを感じる。だが、反面、聞いていたほど病弱でもないように見える。

 ナズナに聞いていた病弱なお姫様の印象が先行していたため、


 ――もっとすごいのを想像してた……。


 と思うけれど、リラの身体が弱いのは事実だった。逆に、『武賀むがくにのナンバー2』である『ほほみのさいしょうたかとうの魔法によって体力が強化されていたのもまた隠された事実である。


「ナズナ、無事でよかった」


 最初にナズナをみとめたチナミは、忍者のようにサッとナズナに詰め寄った。


「チナミちゃん……っ! チナミちゃんも、元気そう……よかった」


 安心したようにナズナがにっこり微笑む。


「玄内先生もいたから。そっちはサツキさんがいるし、ナズナも大丈夫って思ってた」

「うん。リラちゃんとも……会えたよ」


 そう聞いて、チナミはナズナの後方にいる少女へ視線を移す。少女はチナミに朗らかに微笑みかけると、きれいなお辞儀をした。


「はじめまして。リラです」

「私はチナミ。同い年だよね」

「はい。わたくしも今年十二歳になります」


 チナミの誕生日は、七月七日。リラの誕生日は十二月三十一日だから、八月になった今は一つだけチナミが上になる。だが、学び舎に入ったたりした場合の学年では同い年ということになる。この世界ではせいおうこく以外の国々でも、多くの国が四月二日生まれから翌年四月一日まで同い年なのである。


「だったら、敬語や敬称は不要」


 リラの物腰が丁寧なのは元来の性格ではあるが、姉のクコ同様だれとでも分け隔てなく話せる明るさも持っている。リラははにかむ。


「わ、わかったよ。よろしくね、チナミちゃん」

「こちらこそよろしく」


 ナズナはにこにこと二人を見守っている。早く仲良くなってほしくて、二人の手を取って握手させた。


「がんばろうね、リラちゃん、チナミちゃん」

「そうだね。三人、力を合わせて」

「がんばろう」


 小さな少女たちは、同じ旗の下、同じ部隊として戦う決意を固めた。これが参番隊の三人がそろった最初の会話であった。

 チナミは聞いた。


「ところで、リラは絵を描くのが得意だよね」

「うん。それ以外のことはあんまりできないけど」


 苦笑するリラに、チナミはあくまで淡々と言う。


「私はたぶん、リラと得意なことがまったく違う。あなたのことをサポートするから頼って」


 正反対な部分も多い二人だが、相性は悪くなかった。

 その証拠に、ナズナからチナミのことを聞いていたリラは、弾むようにチナミを見る。


「とっても身軽で瞬発力があると聞いてるし、将棋などをやっていて戦術眼もあると聞いてるの。それから、扇子を使った魔法を持っているって」

「リラは隊長になるんだし、今から私ができること、見せておく」


 チナミは巻物を口にくわえると、足元から頭に向かって忍者衣装に変身していく。変身が終わると、動き出す。トントン飛んでくるくる動き回り機動力を見せ、扇子を舞わせた。


「これで、空気中の元素を飛ばしたり煙や砂塵を吹き飛ばしたりする。煙幕も任せて」


 続けて手裏剣を投げてクナイを飛ばし、刀を振り、地面に沈んでみせた。


「忍者の技術はフウサイさんに学んでる途中。刀は元から少し振っていて、今はヒナさんと組み打ちをする。地面や水面に沈むことができる魔法《潜伏沈下ハイドアンドシンク》は、玄内先生にもらった。戦術眼については、自分ではなんとも言えない」


 実際に目の当たりにして、リラは感激していた。


「すごいっ。憧れだわ。とても今のリラにはできない動きばかりだよ。戦術についても、その都度アドバイスをいただけるとうれしいな。リラ、チナミちゃんを目標にもっとがんばるね!」


 リラにとっては自分と真逆の資質を持つチナミに憧れるのは、ごく自然なことだった。しかしストレートに言われると、表情が少ない割に照れ屋なチナミは、反応に困ってしまう。


「そう。じゃあ、いっしょにがんばろうか」

「うんっ」


 と、リラは期待とやる気に満ちた笑顔でうなずいた。

 参番隊が三人そろって、リラは機嫌がよさそうに「リルラリラ~」と口ずさんだ。




 ミナトや玄内たちと話していてその様子を見られなかったサツキは、チナミからそんな話を聞いて安心した。


「なんだか、リラに憧れられてしまいました」

「いいことじゃないか。戦術でも参番隊としての活動でも、悩んだら相談に乗ってあげるといい。もちろん、俺にも相談してくれ」


 サツキにそう言ってもらい、チナミはサツキの身体にすっぽり収まりながら、ふわっと笑みを漏らした。


「迷ったら、相談させてください」


 その後も詰め将棋を少しやって、この日は終わりにした。

 大事そうにサツキがつくった数独パズルを胸に抱き、チナミはぺこりと頭を下げた。


「久しぶりに遊べて楽しかったです。ありがとうございました」

「俺もだよ。ありがとう、チナミ」

「おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」


 サツキはチナミの部屋をあとにする。

 次に行くのは、バンジョーのところだ。

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