3 『事情あるいはその後』

 砂漠の国、メイルパルト王国。

 首都のファラナベルの郊外からまた少し歩いた場所にあるピラミッド、その奥にあるラドリフ神殿を目指していた。神殿に書かれてあると言われる、碑文を読み解くためである。

 碑文にはこの世界の秘密が記されているとふじがわはかは考えており、リラに読み方を教えた。ここからなにか新しい真実を知ることができれば、アルブレア王国の奪還の役に立つと期待していた。

 だが、神殿へ向かう途中で、追っ手の騎士であるマルコ騎士団長たちがやってきて、戦ったのである。

 勝負はサツキたちの勝利だった。

 騎士団長『ランプの主人』利寅丸児リトラー・マルコは、気絶から目を覚まして、仲間たちも眠りなどから目覚めると、クコから士衛組やアルブレア王国についていろいろと聴いた。

 マルコはクコの話を信じてくれた。


「なんですと! では、ブロッキニオ大臣が国を我が物にしようと企んでいたのですか。国から逃れて再起を図った王女様方が、これからブロッキニオ大臣たちと戦おうというのですね」

「はい。まだいつになるかわかりませんが」


 悔いるようにマルコは言った。


「このメイルパルト王国からでは、大臣たちから通信が届くのみでした。ずっとそれだけで問題はなかった。今回、クコ王女たちが国に謀反を起こしていると聞き、それを信じてしまうとは情けない限りです。本当に申し訳ないことをしました。話の整合性、そして王女様の瞳を見れば、なにを信じればよいかわかろうというもの」

「いいえ。事情もわからなかったのですから、仕方のないことです」


 まるで聖女のような優しく大きな心で受け止めるクコに、マルコたちは感激していた。

 マルコの娘である利寅澄智子リトラー・スティスは、年も同じくらいのナズナとリラにぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい」

「気に……しないで。ね?」

「そうです。もう過ぎたこと。わたくしは、みなさんが理解してくれたことがうれしい」


 ナズナとリラの言葉に、スティスはにこりと笑った。

『アンニュイなスライム使い』蔵深降調クラミー・プリシラはクコに向き直って問うた。


「王女、なにか私に協力できることはありませんか」

「え。協力ですか?」


 申し出は有り難いが、クコにはどうしてもらえると助かるのかもわからない。サツキに相談するような視線を向ける。しかしプリシラは即、語を継いだ。


「こちらに配属されたのは一年ほど前でした。でも、騎士は向いていないからやめようと思ってました。マルコ騎士団長にも相談済み。戦う以外のことで、なにかできればなんでもしたい」


 ぼそぼそとしゃべるプリシラに、クコはやはりどうしてもらうのがよいかわからず、サツキを見やった。クコの視線を受け、サツキはうなずき、言った。


「士衛組は、この先も追っ手を差し向けられ、ほかのアルブレア王国の騎士たちと戦うことになります。騎士であったプリシラさんは元同僚が相手だと戦いにくいでしょう。戦闘をしない期間は、我々がアルブレア王国に到着してからです。すぐに開戦はできないため、拠点を構え戦備を整える間、我々の手伝いをしてくれると助かります」

「手伝い?」

「はい。詳しいことはまたのちほど手紙を送ります。そのときに判断していただければ」


 これに、今度はプリシラがマルコ騎士団長を見る。彼のうなずきを受けて、プリシラはサツキたちに頭を下げた。


「よろしくお願いします。きっと力になります」

「ありがとうございます!」


 クコが満面の笑みで頭を下げ返した。




 迷宮を抜けたのは、マルコたちと別れてまたしばらく歩いてからのことだった。

『歴史が眠る迷宮』ラドリフ神殿。

 その迷宮が終わると、あとは隠された神殿が姿を現した。

 ここまで、ただでさえ広い通路であったが、神殿のある場所は最奥部でもあるためか、五十メートル四方を超える広さがあり、高さも二十メートル以上もあった。

 神殿の社は、ガンダス共和国やソクラナ共和国でも見えるようなイスラム文化の色が強く、白くきれいな石が積まれてできあがっている。

 静まりかえった空間は、空気がぴたりと止まっていたかの如くひんやり冷たく、歴史の重みが空気の重たさになっているかのようだった。


「足を踏み入れるのを、ためらうほどの空気ですね」

「ひんやりしています」


 クコとリラがつぶやき、サツキはみんなに呼びかけた。


「でも、探索するためにここまで来た。調べてみましょう」

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