15 『玄内と指導』
サツキはナズナの弓の修業に付き合っていた。
まず、ナズナの姿勢を正して、そこから弓を構えさせる。密着しているからか、ナズナもさっきまでの頼りなげな立ち姿よりも、しっかり背筋が伸びている。
「よくなってるけど、重心はもう少し前だ」
「は、はい」
一生懸命なナズナをこうそばで見ると、クコがサツキを素直でがんばり屋さんでかわいいと言っていた気持ちがわかる。弟子や教え子が自分の教えを吸収して頑張る姿は感動というか、胸を熱くさせてくれる。
補助としてナズナの手に自分の手を添えながら、何度か矢を放ってみる。
そうしながら、サツキは聞いた。
「弓を放つほうの練習はいつから始めたんだ?」
「チナミちゃんたちと別れる、前の日です……」
「ふむ。なるほど。ナズナは接近戦は苦手のようだが、空を飛べるからターゲットを狙う角度も自由自在。弓は相性のいい武器だと思う」
「同じことを、玄内先生も言ってました」
ちょっとおかしそうにナズナは笑った。
そういえば、玄内もマスケット銃を使う。それをヒナの剣に転用させたばかりだった。
「ヒナも逆刃刀で、相手を眠らせる《まどろみ》って技を先生に習っていたみたいだしな」
「敵を傷つけないからって……玄内先生が……」
――性格的にも、ナズナは敵を傷つける行為にひるんでしまいそうだし、合っている。細部にも目が届くゆえに気を遣いすぎるところがありそうなヒナも、逆刃刀かつ眠らせるだけというのは適切な選択だと思う。さすがは先生だな。
サツキも玄内の指導に感心してしまう。普段のいろんなナズナやヒナを見て、サツキもやっと二人のことがわかってきて、玄内が当初からすぐにそれを見抜いてヒナに武器を与えナズナに魔法を与えたすごさが今わかる。
そんな雑談をしながら、何度か矢を放ってみて。
もうそろそろいいかと思い、サツキは提案した。
「ナズナ、これで矢を放ってみてくれ」
ぎゅっと絞って、
「えぃっ」
ひゅんっと放った。
矢は、見事ゆらゆらと落下していた葉に命中した。
「や、やったぁ」
「命中だな」
サツキが微笑む。
振り返ったナズナが、至近距離でサツキと視線を絡ませた。ナズナは耳まで赤くして、恥ずかしさから顔をそむけた。この距離感では照れてしまってしょうがないものだと改めて気づかされる。
――ち、近ぃ……。
ついおどおどしてしまうナズナ。
サツキはナズナのフォームもよくなったし離れようとするが、
「……」
無言で、ナズナはサツキに背中を預けるように体重をかけた。
「大丈夫か?」
「……ちょっと、がんばったから……力が、抜けてしまい、ました」
サツキはくすりと笑う。
「今日は、修業もそうだし、リラ探しも頑張ってくれたもんな。お疲れさま」
「……あ、あの……はい」
うまく言葉が見つからず、ナズナは顔を伏せたままうなずく。
――がんばったごほうびに……もうちょっとだけこうしていても、いいよね……。
甘えるようにサツキにくっついたままのナズナを後ろから見て、サツキはそっと労いの言葉をかけてやった。
「今日は修業もこのくらいにして、ゆっくり休んでくれ」
ナズナを連れて青葉姉妹の元へ戻ってきたサツキは、リラとナズナが部屋に戻るのを見送る。
「おやすみなさい。リラ、ナズナさん」
「おやすみなさい。お姉様、サツキ様」
「……お、おやすみなさい。クコちゃん、サツキさん」
「うむ。おやすみ」
リラにくっついて行くようしていたナズナだったが、一度きびすを返してサツキに歩み寄り、小声でお礼を述べた。
「ありがとうございました。また、弓……教えてください」
「もちろんだ」
「おやすみなさい。今夜は、いい夢が……見られそうです」
ナズナの言葉の後半が小声だったために、途中からセリフがよく聞き取れなかったが、サツキが聞き返す前にナズナは歩いて行ってしまった。
クコは気合を入れるようにして、サツキに向き直った。
「それではサツキ様、もうひと頑張りしましょう!」
「ああ」
明るいクコの笑顔からは、内からパワーがもらえる。さっきまでの頑張る弟子を見守るようなふわふわとした暖かい気持ちから、クコの一声でスイッチが入ったように切り替わる。
――今日こそは、ミナトにぎゃふんと言わせてやる。
サツキはすっかり、戦うサムライの顔になっていた。
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