42 『風渡りの追尾』

 身体を油状に変える魔法を使うバーン。

 その対策はどうすればよいのか。

 思考を巡らせ、クコが思いつく。


 ――もしかして、燃やしてしまえば……。


 油に火をつければ、どうなるのだろうか。さっそく実行に移す。


「フウサイさん、炎をください」

「御意」


 フウサイは姿を見せることなく、答え、忍術を繰り出す。


「《おにばえ》」


 ゆらゆらと揺らめく小さな炎が三つ、鬼火のように漂い、バーンに向かって宙を泳いでゆく。

 クコはバーンへと向かって走りながら、


「フウサイさん、わたしの剣にも炎をください」

「《あおさぎ》」


 刀身に青い炎を灯した。

 どういう仕組みかわからないが、クコとしても本当にこれほど綺麗に炎をくれるとは思わなかった。


「ありがとうございます!」


 バーンはというと、


「熱く焼かれる刺激がほしい。ずっとずっと、望んでいた。でも、でもね、本当に焼くことないじゃない。物理的に焼くのは違うじゃない。アタシの心は曇り空。涙の雨が、もうすぐ降りそう。でも、この雨の雫では、あの炎は消せないのね」


 悲しげに言葉を紡ぎ、次の瞬間――。


「あ! 逃げました! みなさん、わたしはバーンさんを追います!」


 走って逃げ出したバーンを、クコは追いかけた。


「拙者も」


 と、フウサイも《ふうじん》で風に忍び、風を渡り、同行する。

 炎をまとった青い剣を携えて走るクコ。

 ふと気づく。


 ――この剣、近くにあるのに熱くない。燃えてなどなかったのですね。


 炎は《おにばえ》だけで、クコの剣に灯したそれは伊達だったのである。


 ――おそらく、《おにばえ》をうまく命中させるため。わたしはその隙を作ればよいのですね!


 フウサイならもう仕留められるだろうが、クコに合わせて様子を見てくれている。

 また、サツキや玄内も言っていたが、この盗賊団との戦いは修業の一環にもなっている。

 ルカは走り去るクコを見て、


 ――いいわ、クコ。そのまま追いかけ回しなさい。そうすれば、士衛組が盗賊団と戦っているという事実が、より多くの人の目にとまる。宣伝になるわ。


 そんな目論見がある。

 だから、それをわかってフウサイも簡単には手を下さない。そもそも、盗賊団を始末するだけなら、フウサイ一人でもなんとかなるだろう。影で始末するだけでは活躍が伝わらない。そのための戦いでもあるのだ。

 クコが走っていると、バーンはとある民家に逃げ込んだ。

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